第25杯 ②
「お風呂借りた後、一体何があったの?」
「親父から電話が掛かってきて、一体どういうつもりなのかって訊かれたんだよ」
「どうして?」
「それは董子と一緒にいたからだよ、相合傘で」
「それがどうしたって言うの?」
「それが発端になったから殴られたんだよ」
「はっ? それがって――――何それ?」
「董子は俺の事どこまで話聞いてる?」
「結婚とか、会社だとか――――」
「あのバカ親父は見事に早とちりしたんだよ。信じられなくね?」
眉間にしわを寄せた洋輔。手元のドリンクバーのグラスに力が入ってギュッと握る。
向かいにいるその洋輔の様子で、頭にきている事があたしにも理解出来た。
「何を早とちりしたのよ?」
「他の女に乗り換えたって事」
「えっちょっ何それ。とんだ早合点してるんじゃない」
「だろ? 相合傘の相手が瑞奈じゃなかったから、殴ったらしい」
「それで、誤解は取れたの?」
「どうだかね。親父に言われた事で色々俺も考えたよ、こんな感じのまま大学目指していいのか、とかさ」
「何言われたの?」
「んっ? まぁ――――親父の言う事にゃ、結婚したいって言ってた事も会社の事も結局は適当にしか考えてなかったんだろう、お前はいつも中途半端でしかないってさ」
あたしは話を聞いているうちに洋輔の方へ、いつの間にか前のめり気味になっていた。
「全く誤解は取れてないじゃない」
「ああ、なんかその通りだなって」
「なんで? 本気なんでしょ……少なくとも瑞奈ちゃんの事は」
「本気だったよ、でも……」
「――――何?」
「なんでもない――ただ今は会社の事を瑞奈とは切り離して考える事にした」
「そう、あたしには洋輔が決める事だから何も言えないけど、分かり合えるといいね」
「ああ、その意志を伝えに行こうって思ってる。このまま半端な奴だって思われたくねぇからな」
「うん、今回は意志伝えるのが無難かもね」
「だからさ……今から親父んとこ行くぞ」
「そう、行くんだ」
話が解決の方向へ進んだ事であたしはホッとする。そんなあたしへ洋輔は不意を衝く事を言うのだった。
「なに人ごとみたいに。董子、お前も一緒に行くんだよ」
出し抜けに言われた事で納得出来なかったあたしは思わず洋輔に言い返した。
「はっ? なんであたし?」
「あたし――が発端だからだよ」
洋輔が当然だろっと言わんばかりの態度を取った。それでも、あたしはなおも食い下がる。
「冗談でしょ?」
「こんなマジな会話中に冗談言うわけないだろ」