第23杯 ③
「――――――こんばんわ」
あたしはそれくらいしか言えないでいた。そう、真面に藤井くんの顔がみれない。ふたりだけで、しかも藤井くんの部屋にいるなんて……信じられない……夢だったりして―――――――なんて思っても、心臓は正直で胸のドキドキがどんどん大きくなる。
藤井くんはあたしの目の前にいて、小さめのテーブルをふたりで囲んで座っている。彼の姿をチラチラ見ながら、あたしは彼の気持ちが気になり始めていた。
同じ様に緊張してくれているのかな。それとも――――――見た感じ、彼はリラックスしているように見えるけど、ちょっとだけいつもより硬いかな態度が。
彼に気づかれないようすぐに視線を戻して、テーブルの上を見る。そこにはさっき彼が入れてくれた麦茶。やっぱり、何を話せばいいのかわからなくて、目の前のコップとひたすらにらめっこ。
間を持て余したような感じで藤井くんは、お風呂の方角へ視線をやる。
「えっと……お風呂~あとちょっとで入るから、もう少しだけ待っててくれる?」
頷くあたしも特に話を盛り上げる話題が見つからず、麦茶を飲んでは置くを繰り返す始末。
「あのさ――――――」
あたしにそう声を掛けた藤井くんの顔が深刻な表情をしていた。突然、彼の雰囲気が変わってしまって、自分の口にある麦茶を慌てて飲み込んだ。
「っ――――――どうかしたの?」
「えっああ――――――あのさ……話したい事があるんだけど」
「急に……どうしたの? なに? なんか……大事な話?」
「んっ、そんなような感じかな……やっぱり、お風呂の後にするよ」
曖昧な藤井くんの言い回しがなんか気になるけど、本人が後で話すと言ってるので、あたしは逸る思いを留める。後ですぐわかるはずだから、とそう自分に言い聞きせては、彼に気づかれないように気持ちを抑えた。
「そう、わかった。じゃあ、後で話聞くよ」
あたしの返事を聞くと、藤井くんは床に手を軽くついて、真っ直ぐにそのまま立ち上がる。
「お風呂の蛇口閉めて来るよ」
「うん」
そう返事を返したあたしは、藤井くんが部屋に戻って来てからお風呂に入らせてもらうのだった。