第22杯 ③
フリーマーケットのお客様が狙い通り、こっちにも流れて来た。
カップルや、友人同士、そしてファミリーだったりで、客層はさまざまだった。
あたしはカウンターでコーヒー豆を炒っては、ミルで豆を挽く。その度に学食内にコーヒー豆の香ばしい薫りが、漂っていた。
「コーヒーのいい薫りがして、いいわね~」
「ここでこんなに本格的なコーヒーが飲めるとは思ってなかったわ」
お客様がそう友人の方に言うのが聞こえてくると、あたしの顔は自然とほころぶのだった。
他のお客様もとても喜んでいる様子が、ここからでも手に取るようにわかった。
特に若い女性には、はちみつの入りのアイスブラックコーヒーの受けがよく、他のお客様の評判が耳に入ったのか、それを聞いて同じものを、と注文される方が多かった。
暑苦しい外から来たお客様は大抵喉が渇いているようで、だいたいがアイスを好まれる。
中でも、男性に受けがよかったのは、コーヒースカッシュだ。
良く冷えた炭酸と喉ごし、それがとてもよかったのか、ものすごく好評だった。
年配の方はその逆でやはり、ホットを好まれる方が多く、コーヒーそのものを味わいたい方が多く、コーヒーの純粋な味を好まれる。
それを懐かしんで飲んでいるの姿が、よく見られた。
陽が沈む頃、ようやくお客様の足も途絶える。
あたしは作業に追われて、真面な休憩を取っていない事に気が付く。そして、腕を上に伸ばし、う~んと背伸びをするのだった。
一日中コーヒーの豆を炒ったり、挽いたりしていたから、その慣れない作業で身体がガチガチになっているのが自分でもわかった。伸びをして、酷使した身体を少しの間、緊張から解放する。
「ふぅ――――――」
あたしがリラックスした瞬間だった、突然藤井くんが姿を現したのは。その姿に、藤井くんが少し笑っている様にも見える。
「大きなため息だね」
「あれ、藤井くん――――――それに洋輔も」
満面の笑顔のあたしが藤井くんの名前を言った後に、いつもの表情に戻った瞬間、洋輔も彼の後ろから顔を見せた。
「なんだよその態度は、慎一とはずいぶん違うくね?」
「たまたまで被害妄想よ。あたしは誰にでも同じだから」
「なら、いいけどな」
少し不服そうな感じだったが、洋輔の事はスルーして、あたしは話を続ける。
「あれ、でもふたり共どうしたの?」
「ちょっと、覗きに来ただけだよ。特に用事があるわけじゃないんだけどね」
「そっか……あっ今日はふたり共ありがとう」
あたしはちゃんとお礼を言っていなかったから、改めてふたりに軽くお辞儀をした。特に洋輔は、こっちに来ないで帰ったから、あたしの感謝の言葉を今初めて聞く事になったはず。
「じゃあ、トウコ、今って客少ないから、俺らにもコーヒーふる舞ってくれよ、それでチャラにしてやるよ」
洋輔は相変わらず、あたしへの態度が一貫してて、ある意味でのハイクォリティー。
「あんたって、ホントに現金」
「まぁな。トウコがどれだけスキルをあれから磨いたか、興味あるしな」
「それじゃ、感謝のしるしにコーヒー淹れるから、空いてる席に座って、ふたり共」
ふたりはあたしの作業が見える、近くのテーブルに腰掛けるのだった。