第22杯 ②
「もしもし――――――」
「……あっこっちね、準備終わりそうだよ」
「弥生、今そっち行こうと思ってたんだよ」
「それなら、大丈夫。わからない事は哲太さんに電話して聞いたりしてるから」
「いつの間に携帯教えてもらったの?」
携帯の向こうで弥生がクスリと笑っているのがわかった。
「それはね~内緒。ちなみに手伝いに来てくてるふたりのは、まだなんだけどね」
「今は要らないよ、そんな“ちなみに”情報は」
「そう? じゃあ、お互い頑張ろう」
「――――――だね。ホントそっち行かなくても大丈夫?」
「いまんところはね。あ、材料が来たから電話きるね」
「うん――――――」
それで弥生との会話が終わるのだった。弥生の言葉が何故か頭に引っかる。妙に“ちなみに情報”のフレーズが頭から離れない。もしかしたら、今頃弥生は藤井くんの携帯の番号を聞いてるかもしれない、と想像するだけで、あたしは憂鬱になる。
そして、あたしの想像は妄想になって、暴走するのだった。
まさか――――――そんな訳ない……ないない――――――ないと思うけど。藤井くんってそんなに簡単に番号教えるっけ、洋輔じゃあるまいし。でも、どうだろう。逆に嫌だなんていうタイプでもなさげだよね……ダメだ、弥生のせいで、変な雑念で頭の中いっぱいになってる。
妄想を止められなくて、独り勝手に頭を抱えるそんなあたしに、誰かが声を掛けてきた。
「頭大丈夫? もしかして、痛いの?」
藤井くんが手にいっぱいの荷物を持って、こちらを心配そうな目で見ている。
あたしもまた、いないはずの彼を驚きの目で見た。
「どうして、藤井くんが……いるの?」
弥生の所に居るはずの藤井くんが、どうしてここに居るのか不思議で、あたしは一瞬も彼の顔から眼をそらせなかった。
それが藤井くんにも感じ取れたらしく、彼は微笑む。
「向こうは洋輔に任して、こっちの荷物をね。それがどうかした?」
「ううん、どうもしない」
あたしはうわずった声になりながらも、彼に自分の考えている事を悟られないように答えた。
「そう。ならいいけどさ。何かあれば何でも手伝うから、言ってくれよ」
「うん、ありがとう」
何事もなく、これで全ての準備が整ったのだった。これで、万全にお客様を迎え入れられる――――――色んな意味で。
それは浮ついてたあたしの気持ちを、目の前に藤井くんがいる事で払拭したから。
これ以上変な勘繰りをしないで、今日はフリーマーケットにだけ、集中しなくっちゃ、と改めて妄想からあたしは目を覚ました。