第21杯 ④
洋輔のその手には、雑誌が握られている。自分の方に腕を戻そうとした時、表紙に裸の女性が挑発的なポーズをして載っているのがチラっとあたしの視界に入った。それであたしにもなんとなくわかるのだった、それが何か。
「洋輔、それってもしかしてエロ――――――」
「っんだよ、しゃーないだろ。俺は男なんだから」
「じゃあね、いいよ、そんなに慌ててなにも隠さなくても。耳まで赤いし」
慌てる洋輔の顔が真っ赤になっていて、可笑しいのと、少し可愛く思えた。すると、あたしは笑いを我慢できず、口から笑い声がこぼれる。
「笑うな。これが健康的な男だぞ。むっつりスケベよりマッシじゃなくね?」
「じゃ、隠さなくっていいよ」
そう言って、あたしは洋輔が雑誌を自分の背後に隠しているのを、覗き込もうとする。
洋輔もあたしにみせないように必死だ。その反応が面白くって、洋輔をからかいながら、押し問答をする事数分。
「だぁぁぁぁ~もうしつこいっいいだろ」
と言って、よっぽど鬱陶しかったのか、はずみであたしを床に押し倒した洋輔。
急な反撃にあって、今度はあたしが窮地に立たされるのだった。
「……もう、からかわないから、放してよ」
その言葉にはなんの効力もなく、火に油を注いだだけだった。
洋輔のあたしを掴む手に力が入る。
そして、無言であたしを見る眼差しは、さっきまで顔を赤くしていた男の子とは全く違って、男の顔に変わっている。そんな眼をした洋輔は、この部屋に入って今が初めてだった。あたしがそれを感じると、急に自分のこの状態に身の危険を感じ始めた。
と、そこで洋輔の携帯が鳴り始めると、洋輔はそれで我を取り戻した様子。
何も言わず、机の上にある携帯を取って、あたしがいる場所から、少し離れて、誰かと携帯で話し出した。
洋輔の受け答えしかわからないけど、あたしにも一方的な会話が聞こえる。
「はい、もしもし……」
「うんうん…………」
「そうみたいだから。鍵明けとくし、部屋に来て」
「うん……じゃあ」
一瞬にしてその会話が終わったようで、電話を切った洋輔は、なぜかまた顔を赤らめていた。
カッと赤くなったままの頬で、洋輔はあたしを振り返る。
「なんかさ――――――わかんないけど、ムキになってた。ダッサ俺」
その言葉にあたしは返す言葉が今は思いつかない。
「それに、大丈夫? 腕痛くね?」
「えっ腕は大丈夫――――――全然気にしてない――――――――――」
「だよな、あれはトウコが悪い冗談を続けるから、だから、つい……さ」
気まずい空気にお互い会話が続かない。そんな時、洋輔の携帯がまた鳴るのだった。
彼は携帯の画面を見る。そして、玄関の方へ靴を履く。
「マス姉が階段のとこにいるって、俺開けに行ってくる鍵」
「あっじゃあ、このまま部屋にあたしも戻る」
立ち上がって、玄関先に靴を履きに行くあたし。
それから、階段のとこでマス姉と洋輔とは別れて部屋に戻るのだった。