第21杯 ③
お風呂でゆっくりと過ごしたあたしは、心も身体もみたされて、お風呂から上がるのだった。
自分の部屋着を着てから洋輔がいる部屋の方へ行く。
「なんだよ、髪乾かしてないの?」
髪の毛をバスタオルで拭くあたしの姿に、不満げな感じで声をかけてきた。
「うん、だって洗面所にドライヤーがなかったから」
「言えば、持っていくのに」
「えっあるの?」
「ドライヤーぐらいあるに決まってんじゃん。じゃ、こっちくれば」
洋輔に言われるがまま、あたしは彼がいる部屋に再び入った。
「そこに座って」
洋輔が指す場所に座ると、急に暖かい風があたしの後頭部にふく。それに驚いたあたしが、背後にいる彼のほうを向こうとしたら、こう言うのだった。
「あっ動かないで。今乾かしてるから」
「って、なんで洋輔が乾かすの? 自分でやれるから」
「いいからいいから、任しとけって」
「子供じゃあるまいし。いいから、あたしに代わって」
「大丈夫っ俺、こういうの得意だから」
「得意って……あんた女の髪は命って知らないの?」
「んな事ぐらい、知ってるよ。これでも10離れた妹がいるの。それでさ、めっちゃ俺に似て、それが宇宙一もう可愛くてさ」
嬉しそうな声で話す洋輔には悪いけど、全然あたしにはその話関係ないので、思わず振り返って聞く。
「それ、今のあたしに関係あるっけ?」
「まぁ聞けよ。んで、妹がさ、髪乾かしてくれって、いつも俺にせがむんだよ。それで毎回乾かしてやったら、めっちゃうまくなってさ。だから、トウコも安心して任せろよ」
「なにその話、洋輔が女の子の髪の毛乾かしてあげてたって、意外だね」
「まぁな。この話ミズには話すなよ、恥ずかしいから」
「わかったよ。じゃ大船に乗ったつもりで、任せたからお願い」
「ああ、ビックリするほど綺麗に仕上げてやるよ」
そう言って洋輔はあたしの頭から、少しずつ半乾きの髪を手にとると、くしで髪を優しくといた。
それから、あたしの髪の毛を丁寧にドライヤーで乾かしていく、時々、ドライヤーの風や温度を調節したりして。
洋輔がそうして乾かしている内に、後ろから、今度はあたしの前に回り込んできた。
あたしの前髪をそっと摘まんでから、真剣な眼差しで、くしを入れる。そうやって整えたら、今度は前髪に遠目から、ドライヤーの風をあて乾かし終わる。
ドライヤーを切った洋輔が、乾かした前髪をチェックする。そんな彼と目と目が合った。その瞬間、いつもの空気が一変した気がした。
洋輔は黙ると、落ち着かない様子で、あたしの方をジッと見つめたまま動かない。おもむろにぬっとあたしの方へ腕を伸ばした。