第21杯 意外な一面
Cafeの自動ドアの入口から見えた大家さんは、なんだか顔色が優れない様子。
そんな大家さんに事情を訊こうとCafeへと入る。
「大家さんっ」
あたしはひと声出してから、カウンターにいる大家さんに近寄るのだった。
「あっ董子ちゃん。いいところに来てくれたね」
どうやら、大家さんもあたしが来て、険しい表情が少しばかり緩んだ様子。
「あたしも訊ねたい事があるんですが……」
「もしかして、給湯器の事かね?」
「はい、そうなんですよ。実はガスがいくらつけようとしても点火しなくて困ってるんです」
「そうなんだよ、他の女性住人の方に言われて調べたんだけどね、女性住居に繋がってるガスボイラーが故障してるようでね。どうしたものか――――――」
顔が少々青ざめた感じで、会話をするうちに、気持ちの方も少し弱気になっていく大家さん。動揺を隠せないでいる。
「やっぱり、故障だったんだ」
あたしがそう言った瞬間、カウンターの奥からヒョッコリと現れる哲太さん。
「親父っここもダメだ」
「ああ、そうだったそうだった、自宅があっちと繋がっているからね」
疲れた様子で大家さんはそう言いながら考え込んでいる。そこへ哲太さんがまた話し出す。
「ボイラーが動いてるのは男の住居だけだな……どうする、親父?」
「女性住人の方には、今からすぐに連絡を取って事情を説明するとしよう」
哲太さんが大家さんからあたしへ視線を向ける。
「董子ちゃんは事情もわかったようだけど、今夜からどうするんだ?」
心配な顔をしているあたしへ、哲太さんが話しかけて来た。
「どうしようかな……修理ってどれくらいかかります?」
「結構古いから、部品とかがダメなら、少し日にちかかるかもしれない。よかったら、慎一か洋輔の方で風呂を貸してもらうように、頼むけど」
哲太さんがそう言った後に、大家さんもこう言うのだった。
「この際だから、董子ちゃんもそうするかい? 嫌じゃなければ哲太がお願いするけど?」
「う~ん――――――」
あたしはふたりからそう尋ねられると思わず声が出てしまい、数秒ほど考え込んだ。
「じゃあ…………お願いします」
それをキッカケに大家さんは安堵した様子。
「じゃあ、他の女性住人に連絡をするから、後の事は哲太、お前に任せるよ」
「わかった。今さっき洋輔なら帰ってきてたから、訊ねとくよ」
「それじゃ、店も頼むよ。それと彼女に温かい飲み物でも」
「ああ」
「それじゃ、これで失礼するよ、董子ちゃん」
「あっはい。ありがとうございます」
あたしをみる大家さんはにっこり微笑んで、奥の自宅へと消えて行った。
◆◇◆◇◆
あたしは哲太さんが洋輔に電話をしている間、彼が作ってくれたホットコーヒーをカウンターで飲んでいた。
冷え込んでいたあたしの身体をブラックコーヒーが温めてくれる。
そして、身体が温まった頃、哲太さんの話もちょうど終わっていた。