第20杯 ④
「俺はもう、親とも思ってないね」
洋輔の容赦ないひとことで、さすがに“お父さん”の方は堪えた様子。無言になるのだった。
心無い言葉を聞いていたあたしも、さすがに黙っていられない、“お父さん”の不敏な様子に。
「さすがに、それは感情的で言い過ぎだよ――――――謝ったほうが」
「俺とこのヒトの間にあった事、なにも知らないくせに…………」
あたしはそれ以上、何のフォローもできなかった。
なぜなら、自分にはふたりの間の確執になった理由も知らないし、ふたりに対して何が言えるのだろう、と洋輔の言葉に感じさせられたからだ。
あたしは口を閉じるしかなかった。
そんなあたし達の前に、雨の中車道からまたひとり、スーツに身を包んだ男性が現れる。
「急に車を停め、雨の中降りられたようですが、社長どうかなさいましたか?」
そう言って秘書っぽい人が社長と呼ぶ人物の頭へ傘を指したが、すでにあたしも含めすっかりずぶ濡れになっている。
「――――――なんでもない。知り合いがいたかと思って来たが……勘違いのようだ」
「社長、お身体が雨で濡れてらっしゃるようですが…………」
「だから、なんでもないと言っているだろう」
「では、早くお車にお戻りください。風邪でも引きますと大変でございます」
「わかっている、行くぞ」
最後にお父さんはそう言ってから、そのまま乗って来た車に戻って行く、洋輔には言葉もなく、そして、眼も暮れずに。
あたし達のやり取りを一部始終みていた、数人の通行人もそれぞれの歩く方向へ消えていく。道にはあたし達の指していた傘しか残っていない。
洋輔がそれを無言で拾い上げる。
「俺のせいでビショビショだな。それに俺もだけど……水も滴るいい男ってか」
洋輔の空元気が痛々しくあたしの眼には映るのだった。
「って言い過ぎ。いい男なんていないでしょ」
と、あたしもそう応える事で洋輔を気遣う事しかできない。
「だよな~、俺もそう思う…………」
洋輔の言葉を最後にあたし達は、残りの帰り道を無言で帰宅。
でも、ずぶ濡れになっていたにも関わらず、洋輔は傘をずっと差したままだった。それがあたしには引っかかて仕方がない。帰宅した後もあの事があった事を思うと洋輔がとても心配だった。
そんな事を考えていたあたしは、部屋のお風呂を沸かすべく給湯器にガスをつける。なんども火をつけるつまみを回すが、なかなかガスがつかない。
あたしの身体は雨に濡れたせいでどんどん身体から体温が、こうしている間にも奪われていくのだった。
ぶるぶると震えだした身体は自分でも止められない程、限界に達しているようだ。
身体のリミットを感じたあたしは給湯器にガスがついてくれないので、大家さんに訊ねに下にあるCafeへと行くのだった。




