第20杯 ③
いきなり洋輔の後方からおじさんの叫ぶ声が、なにやら聞こえてきた。
「おいっ! お前ってやつはっ」
その声と共におじさんは洋輔の肩を後ろから掴んで、無理やり自分の方へ振り向かせた。彼はあたしの視界から瞬く間に消える。
姿を消した洋輔を探したら、殴られた反動で彼はあたしの斜め先の下にいる。アスファルトの上で、顏を苦痛に歪めている。
「何しやがんだっ、この糞ジジイ」
そう言いながら、アスファルトから立ち上がろうとする洋輔。
目の前にいる、許されざる行為を犯したおじさんを睨む一方で、あたしは洋輔を立ち上がらせるのに彼へと近づいてから、そこにいるおじさんへも問いつめる。
「ちょっいきなり、何するんですか?」
と、言った後に手をかして、洋輔を立ち上がらせるのを助けた。
おじさんはその後景を見ても、ピクリとも表情を変えないでいた。その顔はまるで鬼瓦のよう。
「アンタこそ、そいつ……息子とは、どういう関係かな?」
と、言われて、あたしは驚愕して立ち尽くす。それはそこにいるふたりの親子も同じだった。傘もなくどしゃ降りの雨の中、三者三様にそれぞれ歩道を立ち尽くしていた。
「む、息子――――――じゃあ、洋輔のお父さんっ!?」
隣にいる洋輔本人にそう言ってから視線で答えを求めた。
それに反応を示した洋輔は、あたしではなく、目の前にいる父親を見据えた。
「何が息子だよ。こんな所で、いきなり殴っておいて息子も何もありゃしないんじゃね?」
“息子”も突然反撃された分を、言葉で応戦し始める。
「お前がチャラチャラと女と歩いてるからじゃないのか?」
「チャラチャラッてっだいたいなんなんだよっそれ…………女と歩くのが法律に違反してるとでも言いたいのかよ?」
「なんだとっ! 全く、そうやって、親のいう事に対して口ごたえする所は相変わらずだな」
「あんただってっ相変わらずだよ。俺にそんな事言えんの?」
「スト~ップ! お父さんも洋輔も、ふたりとも熱くなりすぎで、お互い少し落ち着きましょう」
あたしはふたりの会話になんとか割って入る。
でも、ふたりともヒートアップしているようで、気持ちの高ぶりを抑えられない様子。なぜかあたしにまで親子喧嘩の飛び火。
「アンタにお父さんと呼ばれる筋合いはないっ」
「トウコ、何言っても無駄だ。この糞ジジイにはなっ!」
「こいつめ、親にむかってっなんて口のきき方するんだっ」
そう言った“お父さん”がまた洋輔を殴りそうになった所で、父親をひと睨みしてから、洋輔がサラッと冷たく言い放った。