第20杯 ②
「でも、残念だけど、これじゃ一本しか買えないんじゃないっけ?」
「そうだっけ? 一番安いのっていくら?」
「う~ん……」
と、考えてみたが値段を思い出せない。なので、あたしは駅の中にあるコンビニを指差す。
「あっちにKisukoのコンビニあるから、その方が早いと思う」
「じゃ行こうぜ」
洋輔に頷いてから、あたし達は少し離れた駅構内のコンビニへ行く。
コンビニの中に入るとすぐに傘が目に入るのだった。
自動ドアの近くにあるけど、それはビニール傘一本のみ。
洋輔がそれを手に取ると、値段を確認する。
「これ、680円で、ふたりの金で一応買えるぜ」
「じゃあ、これでやっと帰れる」
と、あたしがホッと笑みを浮かべるが、洋輔は複雑な表情をしていた。
とりあえず、お会計を済ましたあたし達はコンビニを出て、先程の駅の改札口のロビーに戻って来た。
「あのさ、早く傘開けてくんない?」
あたしが催促するも、洋輔は手に持っているビニール傘をなかなか開けない。そればかりか、口ごたえしてきた。
「ミズ以外の女と相合傘なんかできねぇ」
と、真面目な顔の洋輔はたわごとを言い出してきた。
「はぁい?」
自分の耳を疑ったあたしは、もう一度洋輔に違う返事を期待して聞き返す。
「だから、相合傘できないって。他の女としたら、ミズに泣かれるからな」
「何を今さら言いだしてんの? 小学生じゃあるまいし、それにあんたが言いだしっぺでしょ」
「俺が言ったのは傘を買うって言う事で、2本安いのが手に入るはずだったの。相合傘は想定外だったんだよ」
「なんで? たかが相合傘だよ?」
無言で洋輔は首を横に振る。なかなか縦に振らない彼の為に、仕方なくあたしは提案する事にした。
「わかった、相合傘って言い方が悪いんだ」
「だよな。よく考えたら、相合傘って言葉が後ろめたく感じさせる言葉じゃなくね?」
「うん。こうなったら、今日から相合傘じゃない、あたし達の中ではカサシェアって言い方でいこう」
「まっその言い方なら、抵抗なくなるっぽい」
「じゃ、改めてカサシェアOK?」
「リョーカイっオッケイ!」
そう言って洋輔は迷いが吹っ切れたのか、勢いよくビニール傘を差した。
「これで帰れるよ」
と、ホッとしたのもつかの間、隣で傘をさしている洋輔は携帯のボタンを数回押して、何かしている模様。
「何してんの?」
「えっ、ああ。メール。ミズの耳にでも入って誤解されたら困るっしょ」
「はいはい、ご自由に。にしても、やきもち妬きなんだ、瑞菜ちゃん」
「ミズはね、俺を好きすぎるんだよ。たまにそこが傷だね」
「さいですか。にしても、洋輔を好きなだけの事はあるね」
「何だよそれ?」
「変わり者って意味。ヤキモチをこんな男に焼くのが、残念、あんなにかわいい彼女なだけに。他にいい男いなかったんだ」
「あのなぁ~これでも学校の女子に人気あって困るくらいなんだぜ」
「それっ自己申告だから、信じらんないな。あっそんな事より、もっと傘こっちに向けてよ」
「あのな、俺はトウコの召使いじゃねぇぞ」
と、憎まれ口を叩きながら、順調にハイツへの帰路につくはずだったあたし達。