第20杯 犬も食わない・・・ケンカ
上空からは激しくはないものの、アスファルトを雨が確実に濡らしていた。そして、時折、雨は大粒となり、あたしの目の前を空気も読まずに降り注いでいる。
目の前の状況に成すすべもなく肩を落とすあたし。突然の雨のせいで自宅に帰る事が出来ない状況。
いつしか、駅の改札口のロビーで仕方なく雨宿りする事を決めるのだった。
しばらくして、あたしとは別の誰かが、同じ様に外を見る。そして、誰ともなく落胆の声を漏らした。
「ツイてないぜ、ったく」
その声で洋輔だと気づいたあたしは、無意識に彼の名前が口から出る。
「洋輔……」
あたしの声が聞えたらしく、こちらに気づいた様子だ。
「――――――トウコ」
あたしの名前を言うとそれ以上は何も言わない洋輔。この間の事を思い出すと彼もあたしもバツが悪くて仕方がない。それ以上、何も言えないで黙る。
ふたりとも沈黙する事数分、この状況に我慢できなくなった洋輔が、先にリタイア。あたしの方へ近づいてきた。
「おたくもそろそろ、帰りたくね?」
「急に何よ?」
「いやだから、このままじゃ帰らんねぇじゃんか」
「帰りたかったら、ご勝手に。ついでにお先どうぞ。それとお構いなく」
「なんだよ、それ。ふたりにとって超いい協力案があんだけどな~」
洋輔がチラッとこちらをみた。そして、誘いかけるような、勿体ぶったような口振りであたしの関心を引こうと独り話をし続ける。
「なぁ、とりあえずここは協力しようぜ?」
不本意ながらあたしは洋輔の誘いをきっかけに口を開いた。
「――――――協力って何を?」
「トウコさ、金いくら持ってる?」
「それがさ……330円しかなくって」
「シケてんな、お前」
「そう言う、洋輔は?」
「俺っ? 俺はほら高校生だしな」
「気にしないから、おねぇさんに言ってみ」
と、わざと優しい口調で語りかけるあたし。それでもなかなか教えようとしない洋輔にダメ押しにもう一言。
「もったいぶらなくていいから、君はいくら持ってるのかな?」
あたしは心とは裏腹に洋輔へ微笑んでみせた。
「あ~これぐらいかな」
そう言った洋輔は気まづそうな顔で、自分の手のひらを広げてみせた。手の上に一枚の大きな硬貨がある。
「ごっごっごひゃくえん!」
「まっそう言うこと」
「あたしより……持ってんじゃん」
「だから、言いにくかったんだよ、年上を差し置いて」
「そりゃ、情けない年上でごめんなさいね。言っておくけど、ちゃんと家にはあるからね、お金」
「はいはい。ま~今は俺のが金持ち」
「あのね~調子にのるな」
「まっそれよりさ、傘がこれで買えるんじゃなくね?」
気軽にそう言った洋輔に、可哀想ではあるが、あたしは水を差す事を言うのだった。