第18杯 ア・ラ・カルト
あたし達がハイツのCafeに通い始めてから一週間と少しが経過した
大家さん達の熱心な指導のかいあって、おかげ様でお客様へもコーヒーを出せるほどに上達。次のステップは色々なコーヒーのメニューを習うだけになっている。
そして、あたしはというと今日は日曜なので大学の友人を駅までわざわざ迎えに来たのだった。
弥生はすでに駅の階段を降りた場所にいるみたい。こちらに気が付いたのか手を胸の辺りで軽めに左右に振っている。
「ごめんね、迎えに来てもらって」
「いいよ、いいよ」
「ホントはさ、董子じゃなくて、哲太さんか大学に来てた年下の彼とかに迎えに来てもらいたかったんだけどね」
「えっ? 今なんかよくわからなかったんだけど――――――」
「だから~哲太さんには忙しいって断られちゃうし、年下の彼は電話も名前も知らないしね~」
「ね~って、気……多くない?」
「そうかな」
「って、おいっ! 誰かひとりにしなよ」
「わかったわかった」
あたしが注意すると弥生はそう言ったと思ったら、今度はすぐさま話をすりかえる。
「ねね、それよりさ、董子」
この変わり身のはやさには呆れるよ――――――まさにこれが弥生の特技って言ってもいいぐらいなんだけど、とひとりあたしは思った。
あたしのそんな思いも知りもしない様子の弥生へと適当に返事を返す。
「やれやれ、でっ?」
「次はコーヒーのバリエーションを習うんだよね?」
「そうそう。楽しみだよね」
「うん、ホントだね」
Cafeへと歩きながら、弥生と色んな話をしていたら、いつの間にか到着。
ハイツの扉を開けてCafeに入ると、店の中にはなぜか、みんなが勢ぞろいしていた。誰かと言うとここのハイツに住んでいる住人のみなさん。手前の席から洋輔、その彼女で瑞奈ちゃんに、マス姉に、藤井くんだ。
目を丸くするあたし達をよそにカウンターのみんなは普通に座ってそれぞれ会話しちゃっている。
弥生もあたしも、状況がわからなくて顔を見合わせた。
「ふたりにはこれから、みんなにコーヒーを振る舞ってもらうよ」
状況がつかめていないあたし達に、大家さんがこれまた状況が把握できない事を言うのだった。
突っ立っているあたし達ふたりに、また大家さんが呼びかけて来た。
「さて……お嬢さん方、ボーとなさんな。早くこっちに来ておくれ」
言葉の指示に従ってあたし達は普段通りカウンターに入って準備。自前のエプロンをして、腰の辺りで紐を結んだ。
「今日はコーヒーのアレンジメニューを教えていくから、必要な材料や手順などをメモしていきなさい」
大家さんにうながされて、あたし達は手にメモ帳を取り出す。メモ帳にはこれまでに教わった事がビッシリと書き連ねていた。