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第16杯 ②

「あれ、董子ちゃんバイト始めたの?」


 そう言って岡島ますみこと、マスねぇが珍しいものでもみるかのように、目の前のカウンター席に座った。そんな彼女を一瞬だけ見るとあたしはフライパンへと視線を戻す。そして、フライパンに注意を払いながら、マスねぇの質問に応える為、口を開いた。


「よっ……バイトっていうか――――――」


 コーヒーを炒るのに注意が、手元へといき、うまく話が続けられない。でも、その様子にマスねぇは黙って話をきいてくれる。


「大学の授業の一環いっかんで……よっ、と」


 話ながら、フライパンを動かす度に、思わず声がもれて、会話にならない。あたしのそんな姿にマスねぇが遠慮したのか、会話を切り上げてくれる。


「なんか……今忙しいそうだから、作業に集中してもらっていいよ」


 また、あたしは掛け声と共に返答するのだった。


「――――よっ、ありがとうマスねぇ」

「んっ……うん」


 フライパンの上のコーヒー豆がとても芳しい薫りにかわる。


「もうそこで、火を消して大丈夫だよ董子ちゃん」


 そう言ったのは大家さん。あたしは言う通りにコンロのつまみを回して、作業を終わらせる。


「あっはい――――」


 大家さんが炒ったコーヒー豆を、フライパンごと自分の目の前まで、持っていく。それから、じっくりと炒った豆を一粒一粒観察し始めた。


「よし、今度はうまく炒ったね」

「ホント……ですか?」


 自信のないあたしはそう言ってから大家さんの顔をうかがう。

 あたしの目と目があった大家さんは満足げに答えてくれる。


「ああ、二回目でこれだけできれば上出来だよ」


 そして、あたし以上にものすごく嬉しそうな笑顔なのが、あたしにとっても、とても嬉しかった。


「向こうのお嬢さんも作業が終わったようだから、今日はここまでにしておこうかね」

「はい」

 

 そう言ってあたしは返事を返すと、大家さんと哲太さんの前に改めて藤江弥生とふたりで並んだ。そして、大家さんと哲太さんに深く頭を下げる。


「今日は無理なお願いありがとうございました」


 あたしが代表してそう言うと彼らは顔を見合わせてから、とんでもないと言わんばかりに困った表情をするふたり。


「ふたりとも、気にしないでおくれ。若い人たちに教える機会なんて、滅多にないんだから。こっちも大変貴重な経験で楽しかったよ。だから、明日っからも頑張ろうね」


 大家さんの言葉に続けて、あさっての方向を見ながら哲太さんはぶっきらぼうに答える。


「気にするな」

「そう言ってもらえると、ありがたいです」


 ふたりの言葉を聞いて、弥生が満面の笑みでそう返した。そして、全員で作業の片づけをする為、そこで会話を切り上げるのだった。

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