第14杯 ②
「あっでも、他に哲太さんのおススメのお店にでも」
「ココじゃなくてもいいか?」
あたしは笑顔で思いっきり首をうんうんと縦にふる。そして、もうひと押しする為に一言。
「今日はご飯が頂ければ、それで十分」
「そか。なら俺のお気に入りの店にでも行くか?」
「ええ」
それから、またあたし達は電車で移動する。電車を降りて繁華街を少し歩くとお店に着いた。
「ここ、すごく哲太さんらしい」
そう言ってあたしはクスッと軽く笑う。そんなあたしを哲太さんは少し困った様子で見るのだった。
「あ~さっきのイタ飯屋はそんなに俺らしくないか?」
「まぁ、らしいとはハッキリ言えないけど、ここならハッキリ言えるかな」
あたしはお店に目を向ける。壁には色んな居酒屋メニューが貼ってあった。目の前のテーブルには焼き鳥が大皿に何種類かのってるのがあり、それと新鮮でプリプリした刺身のお造りに、大きなサイズの焼き魚のホッケが目の前に並んでいた。
「んっこのお刺身あぶらがのってて、すごくしっとりとしておいしい」
「だろ? 何食ってもうまいんだよな、ここ」
哲太さんがおちょこのお酒を一気に飲みきるとプファ~と息をはいて、とても満足げな表情をした。
「うん、焼き鳥もホッケも焼き加減抜群。おいしすぎていくらでも入っちゃうな」
「でも、女はこういうとこ来たがらないって言ってたから、ホッとしたよ」
「んっ――――誰がそんな事を言ってたの?」」
「あっいや……」
しまったと言わんばかりの表情で哲太さんは言葉を止めるのだった。
「さっきの――――店はますみさんが、君を俺がここに連れて来る事を話したら、予約をいれてくたんだ」
「それって、なんか」
あたしは言い掛けた自分の言葉をのみ込んだ。マス姉があたしと哲太さんの中を取り持つ以上の意味があるような気がして、あたしはその事を言えば哲太さんが傷つくんじゃ、とそれ以上何も言えなかった。
「俺って、マヌケだよな……大事な女に想いが通じない上に、こんなお節介までされるなんて」
少し酔いがまわってきたのか、哲太さんの濡れたような瞳が切なく揺らめく。また自分でおちょこにお酒を注ぐと今度はやけくそな感じで飲みほした。
哲太さんのそんな様子をただ見る事しかできなくてあたしは何を話せばいいのか、黙る。
「愚痴って悪かったな」
黙ったままあたしは小さく左右に首を振る。