第14杯 つたわる想い
マス姉の言葉で結局あたしは自分に都合のいい解釈でしか、物を見ていなかった事を思い知らされた。
今日の午後には哲太さんとの約束がある日。本音を言うとあれから数日経つけれど、そんな気分にはなれなかった。もちろん、今もなれない。もうすぐ、哲太さんと出掛けなきゃならないのに。気持ちとは裏腹にあたしの携帯が、元気よく着うたを奏でるのだった。
「はい、もしもし」
「董子ちゃん、準備はできた?」
あたしはその声にちょっと驚いてしまって言葉がすぐでなかった。大家さんかと思うくらいそっくりな声。電話を通じて哲太さんの声を聴いたのは初めてだったから、一瞬大家さんなのかと思ったくらいだ。
「哲太さん――――――ですよね?」
「ああ、そうだけど」
「ですよね――――今からすぐに下に降りるので待ってて下さい」
「ああ」
そう返事をした哲太さんのいる場所に向かう事にした。
あたしは自分の部屋の戸締りを確かめてから、彼が待つ場所へ行く。
ハイツの階段を下りて外に続くドアを開けたら、そこにはガテン系の男の人が少し落ち着かない様子で立っていた。
「哲太さん!」
「あっ董子ちゃん、早く早く!」
「えっ!?」
驚くあたしに何の説明してくれない哲太さん。何度も携帯の待ち受けを見ている。
「急がないと間に合わんぞ」
「なっなんで?」
「説明は後だ。悪いが腕掴むぞ」
「えっ!?」
哲太さんはあたしの返答の間すら与えないで、腕を掴んで駅へと走り出した。
◇◆◇◆◇
電車を乗り継いでやって来た場所には、オシャレなイタリアンレストラン。
「ココって……」
「気に入らなかったか?」
哲太さんが不安げにあたしの顔を覗き込んだ。
「あっいや……そうじゃないけど」
「じゃあ、なんだよ?」
「ココってめちゃめちゃ人気のイタメシ屋じゃ?」
「えっ? そうなのか?」
質問したのに逆に哲太さんに質問を返されてしまう、あたし。予想外の質問に呆れ気味に答えた。
「そうなんです。知らないのによく予約とれましたね?」
「まぁ……」
哲太さんのすんごくすっきりしないリアクションが気になるけど、今は店に入れるかが問題。
「予約は?」
「あっいやそれが……」
「間に合わなかったんですね」
「まぁ、そういう事になるな」
参ったという様な表情で、あたしの顔色をうかがう様に、こちらを見る哲太さん。
「がっかりさせちまって、ごめんな」
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」
正直いうと以前に雑誌を読んで知った時から、料理がおいしそうで食べてはみたかったけど、こういう場所はやっぱり大切な人と行きたいから、今回はおあずけでも気にしない気にしない……でも、やっぱ料理おいしんだろうな――――ちょっと残念。
目の前のレストランから哲太さんに視線を移す。そして、あたしより残念そうな顏の哲太さんに、あたしは微笑んだ。