第13杯 ②
頷くあたしをよそにマス姉は手と手を組むと、上にそのまま腕を伸ばして、のびをする。
「まっ考えるだけ時間の無駄の様な気がするけど」
「考えるだけ時間の無駄って――――――なんで?」
「ん~だってさ、もしそれがわかったとして、なんになるわけ?」
マス姉の見当はずれな言葉にただ驚くあたし。
「―――――えっ?」
「だいたい、洋輔とのケンカの原因はなに?」
「だから、戻って来た中に洋輔もいたし」
さっきとは裏腹にあたしの言いたい事が理解できないでいる。そんなマス姉があたしへと理不尽そうな顔をした。
「なに、洋輔だったから怒るわけ?」
「だって、彼女いるのにって思ったら……ムカついて。そしたらケンカごしになってて」
「呆れた。洋輔の裏も取ってないのにか――――」
あたしはマス姉の指摘に黙ってうなだれる。
向かい同士で座るあたしをマス姉が険しい眼差しで見る。
「それ悪いけど、ただの八つ当たりだな」
マス姉の言った事が今のあたしにはものすごく身に染みるのだった。
「今は反省してます」
「それに誰もいなくなった時にだったら、3人以外も考えられるだろ?」
「それはゾッとするから、考えたくない」
あたしの答えに呆れたマス姉は首をすくめた。
「だろ? ならもう考えるだけ無駄」
「でも、誰かわからないと気持ち悪いし」
「それってとりあえず知り合いの誰かであってほしいって、トウコちゃんの願望じゃん」
的を得たマス姉の言葉に何も言い返せなくなるあたしは図星を突かれていた。
「だから、時間の無駄って言ったろ。忘れるのが一番。それがいい」
マス姉へのいい訳がまだ思いつかないあたしは、言葉が口から出ない。
「もしかして、ファーストキス?」
あたしはブンブンと首を力いっぱい横に振る事でしか、マス姉に意思を伝えられない。
「なわけないか。だったら、その相手に心でも奪われた?」
またもあたしはマス姉の質問に首を横に振るのだった。
「じゃあ、気にする事ないって。蚊にでも刺されたと思ったら?」
マス姉の言葉にあたしはすぐには何も答えられなかった。
夢見てたのかも―――――あたしはキスした相手が、好きな人だったらいいなって。もしそうだったら、すごく嬉しいけど、違う相手なら……最悪だ。マス姉の言う通り、自分勝手に都合よく考えてたのかも。それなら考えるだけ無駄って、そんなの当たり前なのかもな……。
「マス姉――――そう……思う事にする」
マス姉の理性的な言葉に、あたしはやっと頭の整理がついた。それでも自分の気持ちは、今だ納得できないでいるのだった。