第12杯 ③
「で、デカすぎっ」
前髪を上げたあたしは、自分のおデコを見ると、思わず、芸人の様なツッコミ口調になるのだった。
「それくらいしといた方がいいよ。うんうん」
本人に有無を言わさず、哲太さんが勝手にひとり納得している。
「うんうんって……」
あたしは呆れてそれ以上の言葉が続かない。
そんなあたしを気遣う藤井くん。
「やり直そうか?」
「ううん、大丈夫。これでいいよ、ありがとう」
「それなら、いいんだけどね」
藤井くん……なんて言うか、そんな爽やかな笑顔みたら、なんも言えないよあたし。
「これじゃ、飯食いに行くの当分無理だな」
哲太さんがあたしの前髪の両端からみえるバンソコウをマジマジ見ながら言うのだった。
「ふたりで、どこか出掛けるんだ?」
哲太さんの言葉を聞いた藤井くんが、あたしたちを交互に見ると隣の椅子に腰掛ける。
「うん、近いうちにって、話してたところ」
「へぇ、いつの間にそんな仲良くなったんだい?」
「あぁ、違うの違うの。昨日の頭突きのお詫びに、ね?」
そう言ってから、あたしは哲太さんに目配せをする。
「ああ」
哲太さんは短く頷くだけで、大家さんの仕事をフォローする作業を始めるのだった。
「まぁ、飯行く時は取って行けば大丈夫だよ」
「うん、そうする」
「き――――――」
藤井くんが話さそうとした、正にその時、最後の容疑者がCafeに入ってきた。
「よう、おふたりさん」
洋輔が明るく藤井くんとあたしに声を掛けてきたが、あたしはと言うと、こいつだったら最悪だなという思いが顔に出ていたらしく、洋輔の顔が見る見るうちに険しくなるのだった。
「なんだその顔?」
「ええ?」
「いや、明らかに俺を睨んでなくね?」
「別になんでもない。それより睨まれるような事したとか?」
「俺的にはしてねーよ。だから、わかんねーけど、睨むなよ」
洋輔にそう言われるのも当たり前だけど、あたしの気もしらないで、あんまり明るいから腹が立つのだ。だいたい、彼女がいるのにあたしにキスしたとか、ありえない――――てか、絶対ありえないっしょ。何を考えてんのか全くわからないし、意味不だって、今の所は勝手なあたしの思い込みだけど。
「ってか、睨んでないし」
「ストーーーーープ! とりあえず、そこまで」
藤井くんの言葉であたしたちの言い争いが発展しないで済んだけど、洋輔はムスッとしている。
「なんかいづらいから、もう行くな」
「じゃあ、俺も行くよ。バイトだし」
藤井くんがそう言って立ち上がる。
あたしはと言うと無言で彼らを見送るのだった。
ふたりはそのままCafeを出て行くと、すれ違いざまにマス姉がCafeに入って来た。