第１２杯 曖昧な記憶
「大丈夫かい、董子ちゃん？」
「はい、触るとちょっと痛いけど」
「だろうね、まだ腫れてるみたいだよ」
Cafeのカウンターに座るあたしのおデコをマジマジと観察する大家さん。
「昨日よりかはマッシだと思うんだけど」
大家さんの言葉にあたしは恐る恐る自分の額に触れてみるのだった。
やっぱし、触れると痛い……完治とは言わないものの、昨日よりかはそれでも腫れが引いてるかな。これも藤井くんがあたしを急いでここまで運んで、手当してくれたおかげかな。
あたしがそんな事を思っていたら、申し訳なさそうな声が聞こえてきた。
「昨日は……ごめんな」
奥の自宅から現れたのは哲太さん。すこぶるバツが悪そうな表情をしている。
「あっいえ。大丈夫ですから」
「でも、ほら……女の子の顏に――――傷が残ったら……」
「そんなに大した事じゃないので、どうか、気を使わないで下さい」
「いや、でも――――な」
「ひょっとして、他にも？」
「いや……まぁ、その――――」
哲太さんは言葉を濁すと曖昧に返事をした。
あたしはその曖昧な態度に、頭突きよりも、もっと別の事が頭によぎってしまうのだった。
哲太さんの態度も曖昧だけど、あたしの記憶もかなり曖昧で自信がない。
確かに昨日――――――そう、頭突き事件より前に、誰かがあたしの唇に触れたのだ、頭突き事件で忘れかけていたけど。
でも、理由も誰が何のためにか見当もつかない。今、思うと犯人はあの場にいた３人―――――もしくは……そう考えたらゾッとした。
まだ知り合い――――――なら、という思いがうかんだ。そして、第一容疑者かもしれない哲太さんを見るのだった。
「傷も心配……君に」
真剣な表情の哲太さんはその後何も言わないで黙ってしまうから、あたしも何も言えず、黙って会話の続きを待つのだった。
「――――――何もしてあげれなかったから、お詫びに飯でも」
「飯……です、か？」
「ああ、気が動転して、君の事、慎一に任してしまったから……飯、でも？」
「わかりました。ご飯おごってもらったら、頭突きの事は気にしないで下さい」
「ああ、わかったよ」
哲太さんはホッとしたのか、さっきまで眉間にシワを寄せていたが、今はすごく嬉しそうに笑っている。
「じゃあ、空いてる日わかったら連絡するよ」
「はい」
「夕飯でいいよな？」
「はい」
「よし、わかった。俺に後はドーンと任してくれ」
張り切っている哲太さんは自分の胸を軽く掌で叩いた。その様子が面白くて、あたしは思わず笑ってしまうのだった。
「クッ」
「俺、そんなに面白い事言ったか？」
視線を哲太さんから外して、あたしは首を左右に振る。
「全然」
「だったら、いいんだけど」
頭をかきながら、哲太さんは、どこかフに落ちないと言う顔をしているのだった。
Cafeの自動ドアの開く音がしてそちらを見ると、藤井くんが現れた。彼はあたしの座っている方へ近づいてくる。
