第10杯 ③
川沿いの傍の芝生の上には敷物を敷いてある。
敷物には重箱がいくつか解体されて、拡げられていた。どの重箱にも色鮮やかで、おいしそうなおかずが入っている。
おかずは豚の角煮・卵焼き・とりのから揚げ・豚ばらのアスパラ巻き・ささみのしそチーズあげ・その他色々ある。どれも自分を食べてと言わんばかりに重箱へ納まっているのだった。
そこから上を見上げると立派な桜の木がある。
風が吹く度にピンクの桜の花びらが舞い散るのだった。
その度に綺麗だなぁと感嘆の声が周りから聞こえる。
桜の木の近くにはBBQもできる様に、それ関連の道具やらが色々置かれてあった。
藤井くんと洋輔と今さっき合流した洋輔の彼女の橘瑞奈ちゃんたちが、BBQのある場所で、楽しそうに会話をしながら、3人は焼けたお肉をおいしそうにほうばっている様子があたしの目に映るのだった。
敷物にはあたしとマス姉と哲太さんがいる。
あたしたちの傍で、何も言わず、もくもくと重箱を味わう哲太さん。それと誰とも会話をしないでいるマス姉。
彼女はもう何杯目かになるかわからないビールを片手に桜を見つめていた。
「それにしても、あたしたちってマヌケだよね?」
あたしが白い紙皿に重箱のおかずを乗せてから、少し元気のないマス姉に話をふる。
「確かに……おマヌケだな」
そう言ったマス姉は手に持っていたビールを一気に飲み干した。
「弁当おいしいか?」
「はい、とっても」
「そかそか。それはよかった」
「これ、マス姉が作ったの?」
「うん――――まぁな」
「尊敬しちゃうな」
「あれ、トウコちゃんは自炊は?」
「簡単なものなら」
「ふ~ん――――男は胃袋を掴まないと逃げられるぞって、あたしが言うなよってか」
「そんな事は――――――」
「ああ~いいのいいの。全然気にしてないから」
マス姉はそう言うと、空っぽになったプラチックのコップへ、傍にあった缶ビールを掴み、注ぎ入れた。コップから溢れかけた白くてふわふわのビールの泡だけを慌てて飲む。
「プハァ~……――――――あたしね……依存してた、アイツに」
「えっ――――依存?」
思わぬ言葉にあたしは驚いて、マス姉を見たが、彼女はこちらを見る事無く、同じ言葉をまた繰り返すのだった。
「そっ依存」
「依存って、マス姉が?」
「そっわかってた――――自分たちがとっくに終わってた事は。でも、それを受け入れなかったのはあたしの方」
「どうして?」
ヒラヒラを舞い散る花びらの中、あたしたちふたりはやっとお互いの顔をみた。