第2杯 この瞬間がものすごく好き。
タダほど高くつくものはないっ!?→この瞬間がものすごく好きに題名変更しました。
2011/2/3/9:00 Choco
大学から戻り、ひと休みしていた部屋でくつろぐあたしは、暇なので昨日のカップを届ける事にした。
「さてと、カップでも返しに行こうかな」
あたしはひとり呟いてから、寝る前に洗っておいた昨夜のカップをキッチンに取りに行く。真っ白な柄もないシンプルなカップを手に取り、下の階にあるCafeに行くため玄関を出る。
大学から直で帰ってきたから、Cafeはまだ営業中。夕方だからかはわからないけど、店内にはちらほらお客さんの姿も。
「いらっしゃい、トウコちゃん」
自動ドアをくぐった瞬間に大家さんがいつもの穏やかな物腰で迎えてくれた。
あたしも早速そんな大家さんへ話かける。
「あっ大家さん。はい、コレ」
あたしはカウンター席の空いていた場所に腰かけて、手に持っていたカップを手渡す。
「昨日のカップだね。洗わなくてもよかったのに」
「でも、昨日借りた物だったから、洗わないと気持ち悪いかなって」
「それもそうだね」
大家さんは自分の言葉がおかしかったのか、クスッと小さく笑って頷いている。
ひと通り大家さんと話した後、昨日の女性が店内に入ってきた様子。横切りかけて、ふと――あたしの目前で止まる。
「あれ、昨日の――えっと、董子ちゃん?」
声をかけられたあたしは顔が見える様に彼女のいる方へ少し振り返った。
「そうですよ、岡島さん」
「名前あっててよかった」
ホッとしたのか岡島さんはそう言って、いつものカウンター席奥じゃないとこに座っていた。それはあたしのすぐ傍だった。
仕事に専念していた大家さんがこちらを振り返る。
「いらっしゃい、岡島さん」
軽く視線を大家さんに向け、岡島さんは手で挨拶してからこちらに話しかけてくる。
「昨日のカップ返しに来たのね」
「ですね、岡島さんはこの時間からいつもここに?」
「ま~ね」
「ふ~ん、そうなんですか」
「あ~今暇なやつって思ったんじゃない?」
「えっ、そそんな事はないですっ」
「まぁいつもって訳じゃないけど、野暮用がない日や嫌な出来事とかあった時は大概ココにいる」
岡島さんは笑ってあたしに少し恥ずかしそうな、照れているような、そんな感じの表情をみせる。
「そうなんだ。確かにココって居心地いいですよね」
「っん、そうそう。居心地良すぎって、董子ちゃんもそう思ってるのか」
「もちろんです」
「そんなんじゃ嫁に行き送れるぞって、あたしには言われたくないか」
自虐ネタ話で盛り上がって来た所、あたし達はお互い顔を見合わせて笑う。そこに大家さんが目を細め、ふたりに声をかけてきた。
「ふたりとも、楽しそうだね」
「えっ」
大家さんの声掛けにあたしたちふたりの声がハモって、それがまたおかしくて笑った。その数秒後に静かだった自動ドアが、微かな機械音とともに開く。
そこにはふたりの人影。