第9杯 ③
「大変なんだね、ふたりとも」
あたしの言葉に、洋輔が誰よりも先に反応した。
「まぁな、どっかの誰かとは違って、俺も慎一も大変なの」
「へ~。それはそれは、どっかの誰かとは、誰の事なんだろうね?」
「さぁ~俺の口からは言えないねぇ」
「あっそ。あたしもどっかの住人に迷惑かけられて、大変なんだよね」
あたしの態度に、どうやらこれ以上は話さないほうがいいと悟った洋輔は、口をつぐんだ。
洋輔があたしにしてくれた事を思えば、今は黙っといた方が賢明。でも、少しいじめすぎたかな、と感じる自分もいた。あたしはちょっぴし大人気なかったと、少しだけ反省するのだった。
相変わらずなあたしたちふたりの会話には参加せず、藤井くんは会話が終わったのを見計らってから、話し掛けてくれる。
「そう言えば、険悪になる前のふたりは何を話し、してたわけ?」
藤井くんに痛い所を突かれたあたしも洋輔も、お互いの顔をチラッと見ては、様子をうかがうのだった。
少しの間を置いてから、洋輔が先に口を開く。
「……安心しろ。俺たちほんの5分前は、ちゃんと会話できてたぜ」
「それは、よかった。もっと皮肉のオンパレードで、会話にならない会話してたのかと、思ったよ」
藤井くんにしては珍しく毒づいた。その後、彼があたしたちに視線を送ると意味あり気に、あたしと洋輔を見入るのだった。
あたしはそれで藤井くんが何を言いたいのか、なんとなくわかった。彼の期待に応えるべく、声を出す。
「言いたい事はわかったよ――――藤井くん」
「じゃ、僕が来る前の仲良く会話してた事を、教えてくれるかい?」
そう言って皮肉る藤井くんは、あたしたちへ微笑んだ。
そして、優しい笑みを浮かべた藤井くんが、今度はあたしだけを見つめる。
「ええ、喜んで」
あたしは藤井くんの何とも言えない眼差しに観念して、苦笑してから、マス姉の為の計画を打ち明けた。
あたしが話し終えると藤井くんは賛同してくれるのだった。
「それいいんじゃないかな、気分転換になるだろうしね」
「だろ、慎一」
洋輔があたしの代わりに、ご満悦な顔をして答えた。
藤井くんの賛成で、あたしは勇気を出し、もう一つの話も切り出す。
「それでよかったら、時間ある時にでも、お手伝いしてもらうと、ありがたいかな」
「ああ、いいけど。何かする事あるのかい?」
藤井くんの疑問にあたしが答える間もなく、洋輔が便乗する。
「そう言えば、まだ、なんも決まってなくね?」
「うん、それを今から考えないと」
「場所と、コンセプトの夜桜が決まってるって事は――――――」
洋輔の言葉が途切れる。そして、少しの間考えてから、何かひらめいた様子。