第9杯 ②
会話が終わってからあたしが横を見ると、隣の洋輔も同じ様な顔をしている。
それは安堵したような表情だった。
「これで決まりだな」
「うん、でも夜桜にしても、桜のゆっくり見れる所、知らないなぁ」
「あそこはどうよ?」
「あそこって、どこ?」
「この近くに川があんだけど、そこは夏なら打ち上げ花火あげたり、桜なら何本か植えてるのを見かけた事あるぜ。それに夏以外なら、比較的にプライベート空間にも近いしな」
「あたしが、求めてる場所にバッチリじゃん」
「だろ?」
「うんうん。でもそんな所、今空いてるかな?」
「大丈夫、そこより、めっちゃでかい公園があって、そっちの方に地元の人間なら、お花見に行くよ」
「なるほどね。やるじゃん、洋輔」
「この俺を誰だと思ってんだよ」
洋輔がどうだ、と言わんばかりのドヤ顔を披露した。だから、あたしもそんな得意そうな彼をシラッと受け流す。
「ただの生意気な高3、でしょ」
洋輔は肩透かしを食らってか、あたしの目の前で、見事にズッコケる姿を披露してくれる。
「んだよ、それ」
「だって、他になにがあるのさ?」
めんどくさそうに答えたあたしをよそに、洋輔は納得できないみたいだ。
「そのまんまじゃなくね?」
「あんたには、それで十分だよ」
あたしはそう言ってクスリと笑うのだった。
「えらい言われようだね」
そう言って、にっこりとほほ笑む藤井くん。
あたしたちが振り返ると、そこにバイトから帰って来た藤井くんの姿があった。
洋輔は藤井くんへ、声を出さず、あたしへの文句を態度で表すが、彼は見て見ぬふりをする。
あたしはそのお調子者の隣から、改めて藤井くんに声を掛けるのだった。
「藤井くん、バイト終わったの?」
「ああ。やっとね」
「お疲れ様でした」
藤井くんは肩をほぐしながら、あたしの隣の席に腰掛ける。
洋輔もあたしと同じ様に、疲れ切った藤井くんをねぎらった。
「お疲れさん。慎一、勉強とバイトの両立はきつくね?」
「ああ、そうだな。お互い疲れるな」
洋輔も藤井くんも背が高いから、あたしを挟んで会話も楽々らしく、あたしの頭上で、遠慮なくふたりの会話が繰り広げられる。
「次は、バイトいつなんだ?」
「なんでだい?」
「いや、勉強の方みてほしくてな」
真面目な顔の洋輔がそう言うと、藤井くんは何かを考えている模様。その隙にあたしも彼らの会話に参戦する事にした。