第9杯 季節ならではの計画
「この前はすごかったよな、マス姉」
「だね、あたしもビックリしちゃったよ」
Cafeのカウンターで洋輔とあたしはふたり、この前の事件の事を話していた。
「ああ、まさかのパンチだったよな、俺はスッキリとした気分になったぜ」
洋輔は興奮したのか、ボクシングをするみたいに両腕を構え始めた。右手と左手を握ると、拳をつくる。それを片方だけ、何もない空間に突き出すと彼は得意気に殴って見せるのだった。
「あたしも。殴られたあの人には、気の毒だけどね」
「そうか? あれぐらい当然だって思うけどな。俺的には」
満足げな顔の洋輔。そんな彼には悪いが、あたしは他に気がかりな事があった。
「それよりさ、あれから少し元気ない気がする、マス姉」
「確かに、あれから空元気って感じだな」
「余計なお世話かもしれないけど、なんかできる事ないかな?」
「できる事つっても、なんもないんじゃなくね」
「――――――う~ん」
思い悩むあたしの口からは、思わず声がこぼれた。そして、自分の頭で考えていた言葉が自然と口から出る。
「今の時期で誘っても、不自然じゃないものって」
「今、桜が見頃ですよ」
洋輔以外の男の人の声がした。視線を洋輔から声の主に変えるあたし。
視線の先はもちろん大家さん。
大家さんがCafeの外の桜に視線を送って、あたし達にソッと教えてくれる。
外にある桜は通りに何本か植えられていた。その8割程が開花している。薄っすらと桃色に色づく桜は、確かに見頃を迎えているのだった。
「そっか――――桜か……」
「それなら~、夜桜なんていいんじゃなくね?」
「確かにお花見なら、全然大丈夫だよね」
「ああ、そうだな」
洋輔との会話が終わると素晴らしい計画のヒントをくれた大家さんを見る。あたしの視線を感じたのか、大家さんは用事を一瞬止めて、こちらを見て微笑んでくれる。なんだか、心が通じたみたいで、あたしも嬉しくなるのだった。
そして、こちらに来る大家さんへ、あたしも微笑んだ。
「さすがですね、大家さん」
「いえいえ、今の時期ならではの事なら、桜が一番いいですよ」
「ですね」
大家さんは忙しいのに、仕事の手を止めて、あたしの所へわざわざ一声掛けてくれる為、来てくれたのだ。話が終わったら、また自分の仕事に戻って行く。再度、用事をこなし始めた。