第7杯 ②
カウンターには大家さんの姿がない。休憩にどこか出て行ったか、奥にある部屋で休んでいるんだろうなと、そんな事を思いながら、目の前の”哲太さん”に仕方なく声をかける。
「食事お願いします」
「ああ、きいているよ」
「皆、なんでもいいみたいで」
話しかけた相手に、あたしは肩をすくめ、苦笑してみせたけど、話が続かなそうな雰囲気。
その雰囲気に耐えられなくなって、あたしはカウンターを離れようか、と思ったけど、もう一度話しかけてみる。
「あ~あの――――はじめまして、宮野董子です」
声に反応してか、作業中の”哲太さん”があたしをチラっと見る。
「ども、ココのオーナーの息子で、哲太と言います」
「お話は伺いました。ふたりから」
「そう……じゃ作業の続きいいかな?」
「あ、はい」
「できたら、テーブルに持っていくよ」
「はい、お願いします」
ぎこちない会話を済ませたあたしは、ふたりの元へ、今度こそ戻る。
ふたりから感謝の言葉をもらい、そのままあたしは元の席に座った。それぞれ食事が来るまで、思い思いに時間をつぶす事に。
洋輔はやっぱり寝る体制を取ってる。藤井くんは読書を始めたみたい。あたしはと言うと、本を読みながら、暇ついでにふたりを観察してみた。
ほんの少し時間が経った頃、香ばしい匂いがCafeに漂い出す。
いい香りに、本から目を逸らし話しかけて来た藤井くん。
「いい匂いだね」
あたしも藤井くんに応える為、本から視線を彼に移す。
「ええ、とっても」
「宮野さんはどこの大学?」
「あたしは桜花女子短大」
「そう、講義大変だろう?」
「そうなんです――――もっと、短大って楽なのかと思ってたんだけど」
「講義がぎっしりで大変らしいね」
「はい、思ってた以上に……大変で」
「いつも部屋で勉強を?」
「一応……講義の復習と予習をしてます。藤井くんは――――――」
「お待たせ……」
その言葉であたしたちの会話がさえぎられるのだった。目の前にはおいしそうな両面トーストしたパンで作られたサンドイッチ。それを持って来たのは、作ってくれた哲太さんだ。
「ありがとう、哲太さん」
「ありがとうございます」
「ああ、頑張って」
「はい」
サンドイッチのお皿を受け取った藤井くんはテーブルの各自座っている場所に、置いてくれる。
あたしは隣に寝ている洋輔を揺さぶり起こした。彼は起き上がり、口をこれでもかと言うぐらいに開けて、アクビした。
「……ふぁ~あ」
アクビで眠気が飛んだのか、今度は窓の外を気にし出した洋輔。
「――――――あれっ?」