第7杯 大人の恋愛事情
「天気悪いから、店――――ガラガラじゃなくね」
洋輔の言葉でCafeの隅々まで見わたした。誰もいないCafeはあたしたちの貸切状態。
この状態を目の当たりにして、あたしは苦笑するしかなかった。
そんな洋輔とあたしの様子に、藤井くんが気を使ったようで――――――
「ふたりとも、集中切れたみたいだから、休憩はさもうか」
「――――ですね」
「次、宮野さん交代で大丈夫?」
「なんとか……やってみます」
「うん、お願いするよ」
あたしたちの会話がまとまってか、洋輔は立ち上がり身体全体を伸ばし始めた。凝り固まってた身体をほぐしたかったみたい。席に座ると、今度はあくび。
「眠そうね」
「ま~な」
洋輔はそのまま上半身をテーブルに伏せ、虚ろな顔。それ以上話掛けんなって言われている様な気がして、あたしは藤井くんに話を振る。
「藤井くんは?」
「俺っ? ちょっと疲れてるけど、大丈夫だよ」
「宮野さんは眠くないの?」
「今はそうだな――――お腹減ったかな」
「じゃ、なんか食べにでも行くかい?」
「あっ! 食事は大家さん用意してくださるって」
あたしの言葉に、ムクッと起き上がり、大声を出した洋輔。
「やったーーー!」
周りにはお構いなしにガッツポーズをするから、あたしのとこまで伸びた洋輔の腕が、当たり掛けるのだった。
「シー声大きいっ、あと、いきなり腕も伸ばさないで」
「悪い悪い、ついつい」
「ついついね……」
悪気なさそうな表情の洋輔を、あたしはひと睨みする。
あたしたちの不穏な空気を察知したのか、急にしゃべり出す藤井くん。
「あ~、食事作ってもらえるんなら、助かるね、宮野さん」
「えっ――ええ。そうですね」
答える為にあたしは藤井くんの方へ顔を向ける。そんな彼は洋輔からすっかり注意を自分自身に向ける事に成功したので、ホッとしている様子。
「じゃあ、どうしようかな」
「あたし大家さんに言って頼んできますね」
「うん、そうだね。それがいいね、なっ洋輔?」
「あっああ。腹減って集中力切れたしな」
ふたりは示し合わせたように、会話を進める――――――まるで、相談でもしていたかのように。
そんな彼らが気の毒そうだから、洋輔の事は水に流す事にしてあげて、あたしはそのまま会話を続ける事にした。
「じゃあ、サンドイッチとか軽食類ですけど、何かリクエストは?」
「なんでもいいよ、俺は」
「俺も、なんでもオッケイ」
「はぁ~い。じゃ、頼んできます」
愛想よくふたりに返事をして、席を立った。大家さんたちがいるカウンターへ移動する為に。