第6杯 ③
「確か――――夜中とか、Cafeにいる事が多いかな。とっても無口な人でね、あまり話をしているのを見た事ないな」
「そうそう、俺はよくマス姉に絡まれてるのしか、見た事ないぜ」
「そうなんだ、それにしても大家さんと雰囲気がちがうなぁ」
飲んでいたコーヒーを置いてから、テーブルにある参考書っぽいものを手に取る藤井くん。それをパラパラめくり、内容に目を通している。
「まっ話はそれぐらいにして、洋輔の勉強会始めようか」
「ですね、あたしは何教えればいいのかな?」
「宮野さんには、どんな感じに勉強するか、要領を掴んでもらってから、交代してもらおうかな」
「わかりました。とりあえず出番が来るまでは、あたしも自分の勉強しようかな」
「うん、それがいいよ」
「はい、わからない事があったら聞いてもいいですか?」
「遠慮なく、聞いてくれていいよ」
「ありがとうございます」
あたしは藤井くんをみながら、軽く頭を下げて微笑んだ。
そんなあたしたちの会話に、洋輔は少しイライラしている模様。
「そこのふたり、イチャついてないで、勉強教えろよ」
「全然イチャついてないから、ほら、洋輔はコレ解けるようにする!」
「その前に慎一、この数学の問題の解き方教えてくれよ」
「この前のか……これはココをxと考えて、yの値から出して計算していけば――――」
しばらくこんな会話が繰り返されながら、ヒントを藤井くんからもらい、洋輔が数学の問題を解いていく。
本格的にふたりは勉強を開始し始めたのだ。
真剣なふたりをよそに、あたしも交代するまで、自分の勉強を見直す事にした。講義で習った事を思い出し、ノートを見返しながら、復習する。
時間が経過して、集中力をかくようになっていたあたしは、ガラス越しに広がる風景を眺め始めていた。
「――――天気悪いな」
この一言で、どうやら、集中力をかいていたのは、あたしだけじゃなかったみたい。cafeのガラスの向こうに黒っぽい雲が広がってきているのを見たのか、洋輔がそうつぶやいた。
「そうね、崩れそうな――――雲ゆき」
あたしが何気なく、ガラスの向こう見て言った矢先だった、透明なガラスにポタポタと大粒の雨が降る。降り始めで、まだ所々にしか、大粒の雨が打ちつけていないようで。
「降ってるみたいだね――――もう」
藤井くんの言葉をキッカケに、いっそう激しく雨が街に降り注ぐのだった。