第5杯 ④
あたしはマス姉と会話しながら、待ち人を待とうと、思っていたが、その肝心な相手は休日出勤。話相手がいなくなって、時間を持て余す事に。
「おや、董子ちゃんは今日出掛けないのかい?」
「はい、あたしは昨日に続いて、今日も洋輔の子守りです」
「そうだったのかい」
「はい。でも、今日は藤井くんも一緒なので、少し気は楽ですけど」
あたしは少し苦笑を含めて、大家さんに答えた。
「そう、それはよかったじゃないかい」
「はい」
「じゃあ、1日ここにいるんだね?」
「はい、そうなりますね。洋輔に勉強教える約束になっているので」
「そうかい――――それなら、みなさんで勉強会なさるのなら、ココで食事等用意しようかね?」
「でも、ご迷惑かからないでしょうか?」
「大丈夫、心配はないよ。しっかり洋輔くんには勉強してもらわないと」
「ですね。後、あそこのテーブル占領してもかまわないでしょうか?」
大家さんも洋輔に対し、そう感じていたのかと、思ったらおかしかった。それでも笑うのを我慢して、あたしはカウンターの斜め後ろにあるテーブルを指す。
「ああ、かまわないよ。もし――――混みそうになった場合は、図書館にでも移動してもらおうかね」
「じゃあ、それまでお言葉に甘えさせてもらいます」
「ああ、そうしておくれ」
あたしとの会話が終わるとまた大家さんは、自分のしていた仕事の続きをやり始めた。また会話相手がいなくなった為、あたしは自分の鞄に手を伸ばす。
あらかじめ、自分の鞄の中には時間つぶしの品々を、こんな時の為に仕込んでおいた。
あたしはどれにしようかと迷ういながら中を探る。一度手に持った物をマジマジ見てから手から離し、また違う物を手に取り、悩む事数十分。なかなかどれがいいか決められずにいた。
ずっと鞄とにらめっこしていたあたしの目の前に、スゥーっとコーヒーを持った手が現れる。視線を鞄から外して、手が現れた方に移した。
そこには目を細めて優しく微笑む大家さん。
「はい、これ」
大家さんがそう言って、カウンターに置いた白いコーヒーカップを指で指す。
「あっありがとうございます」
「まだ、ふたりとも来られないようだね」
「ですね。もう約束の時間なんだけど」
「まぁ、これでも飲んで待つといいよ」
「はい――――」