表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/89

第5杯 ③

「ど、どうしたんですか、急に?」


 あたしが次の言葉を発するより先に、マス姉が視線をあたしから手に持ったカップに移す。


「んーなんとなくさ」


 マス姉の元気のない声が少し気になったけど、聞かれた事にあたしは答え返した。


「今はいないですし、あたしの大学女子だけだし」

「ふ~ん、出会いがないのか」

「まっそんな感じ――――ですね」

「じゃあさ、あのふたりはどうよ?」

「えっ――――あのふたりって?」

「この前紹介したコ。藤井慎一くんと洋輔の事」

「う~ん、あんまり藤井くんの事知らないし、洋輔に限ってはない……」


 間を少しおいてから、あたしは尚もとどめを刺すかの様に言い切る。


「ないっうん。彼女いるし――――ないですね」


 言い切った後、何度もうなずくあたしに、納得できてなさそうな顔のマス姉。


「んじゃ、董子ちゃんは誰かのものだと、諦めるんだ?」


 ちょっとの間考えてから、続きを答えるあたし。


「う~ん、諦めるって訳じゃないけど、

 彼があたしの方を見てくれるまで待ちます。

 何より、彼女と自分の間で悩んでる姿は辛いし、

 そんな中途半端な付き合いもあたしは嫌です。

 それにどちらも選べないって事は――――――その人は、

 あたしじゃなきゃダメっていう事じゃない気がする」


 自分の考えを言い切ってから、あたしは沈黙しているマス姉の様子を伺う。

 

「って、あたし真面目に答えすぎちゃったかな?」

「ん~なんかさ、董子ちゃんらしいな」


 マス姉はまたカップを手に取り、コーヒーを一口飲んだ。ゆっくりと味わっていたコーヒーをちょうど飲み干し、カラッポのカップを見つめたまま、一息つくと皿の上にカップを置く。


「さてと、そろそろ出勤するか」

「マス姉、今から出勤なんだ?」

「うん、ま~ね。休日出勤って所かな」

「社会人は大変なんだね」

「そっいう事。じゃ、マスターごちそう様」


 大家さんは仕事している手を止め、声が聞こえる方に顔を向ける。

 あたしの隣にいるマス姉へ優しく微笑んだ。


「岡島さん、いってらっしゃい」


 なぜか緊張気味で少しこわばった様な顔をするマス姉。大家さんの声を聞いてか、表情が和らいだ。

 今まで強気な姿しか知らなかったあたしの目には、少し弱々しい感じに映る。彼女は出していた自分の物を鞄に詰め、カウンターに手をつき腰をあげた。


「それじゃ、いってきます」


 お店の出口にマス姉はゆっくり歩いて行くのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ