第4杯 ④
「んじゃー俺はね、腹減ってるし、これとこれとこれがいいな」
「そちらでしたら、セットメニューでご用意できますが?」
洋輔の注文に反応した店員さんが、すかさず彼にお得なセットメニューをおススメ。
「セットあるなら、それで」
「かしこまりました」
「ミズは? 注文決まったのか?」
「ううん、まだなの。何がいいかな?」
「好きなもん、頼めばいいんじゃね?」
「じゃっ洋ちゃんと一緒のっ」
「かしこまりました、それではご注文を繰り返しま――――」
店員さんが確認を取っている間に、コソコソと鞄から自分の財布を取り出して、お金の勘定をするあたし。
頭の中の計算を終えて、財布から視線を元に戻した。
目の前はガランとした空間だけがあり、見事に向こうの端まで見通せる。
そして、そこにいるはずだった人の姿がない。どうやら夢中で計算していたあたしの耳には、いつの間にか店員さんの声が、聞こえなくなっていた模様。
キョロキョロと店員さんの姿を探しながら、状況を把握するために洋輔へ問いかけた。
「あれっ、店員さんは?」
「もう、向こうに行ったけど、返事ならしといたよ」
「あ――――そう、ありがとう」
「どういたしまして」
満面の笑みで洋輔が得意気に答えたのを最後に、あたしとの会話がなくなるのだった。
そこに洋輔の隣に座る彼女がイジケルような口調で、彼に問い詰め始めた。
「洋ちゃん、最近忙しいの?」
「なんで?」
「だってぇ、なかなかデェトしてくれんないんだもんっ」
「ああ、それはミズとの将来を考えてで、俺は今大学行くための勉強してるんだぜ」
「その話は聞いたけど、ミズすんご~く寂しいのぉ」
彼女は洋輔の服を細くきれいに手入れしている指で少しつまんで、自分の方へ彼をグイグイと寄せる。
引き寄せられた洋輔はなにやら彼女の耳元で囁く。彼の一言で、ふたりの空気が変わったのか、ラブラブなご様子。
食事が運ばれてくるまでの辛抱だ、とふたりのラブラブっぷりを横目に何度も自分へ言い聞かせるあたしの瞳に、注文した商品を引き連れた店員さんの姿が。
今日は特別その姿が輝いて映るのだった。
到着した店員さんが運んできた料理をそれぞれの目の前に置くと、テーブルいっぱいに美味しそうな香りが広がる。
「ご注文は以上でおそろいでしょうか?」
「はい」
店員さんが白い紙を透明の筒の様な置物の真ん中に紙を差し込む。軽く会釈して去っていった。その間中も彼らは何も気にせず、ふたりだけの世界。
いろんな意味でお腹いっぱいのあたしはうんざりしていた――――――――水分で胃袋はチャポンチャポン。目の前のバカップルのせいで、今にでもお腹がはち切れそうだった。
理由はイチャイチャする洋輔たちを暖かく見守るスキルなんて持ち合わせていなかったから。飲み物を一気に飲んでは、その度にドリンクバーへ何度も足を運び、往復する始末。
ふたりはすっかりあたしの存在を忘れているのか、それとも、今時の高校生は公衆の面前で恥知らずな行為を、遠慮なしにやってのけれる程、動物的本能が抑えられないお猿さんなのか。