第4杯 ③
「だから、まさか彼女もごちそうになる気?」
「あったりめーじゃんか」
まるで、当たり前の様に洋輔は答えたが、この態度を見る限り、まだ、あたしの財布事情を把握できてないらしい。目の前の後景に、思わず自分の額を抱える。
「まぁ、細かい事は気にすんなって」
「気にするでしょーがっ」
「そう、怒るなって。俺、今腹減りすぎてよっ死にそうなわけよ」
「ったく、とりあえず座ればいいんでしょっ」
文句を言いながらも、洋輔の彼女が待つテーブルへ。彼は彼女の隣に、あたしはテーブルを挟んだ向かい側のソファーにそれぞれ座る。
「わりぃな、待たせて。どっかの誰かが、ごねって――――」
洋輔が話終わらない内に、誤解のないように、あたしは彼の言葉に割り込む。
「誰がごねったって?」
「ん~なんか、ふたりとも~険悪なカンジィ?」
気が抜けるような軽い感じの声と、それに語尾の最後があがるイントネーション。そんな軽い感じの口調で言葉を発したのは、洋輔じゃなく、彼の彼女。大人の対応を努める為に下手な愛想笑いで、その場つくろうあたし。
「そういう訳じゃないんだけどね、予定じゃおごるのはひとりと思ってたから」
「おねぇさん、ミズの事なら、ぜんぜん気にしなくていいのにぃ」
おねぇさんという言葉に、全くシックリ来ないあたしは引きつった顔を苦笑いでなんとかごまかす。
「遠慮すんなって、ミズ」
「洋ちゃんがそう言うなら~食べちゃおっかなっミズも」
「コラコラ、そこっ人の話聞いてたわけ?」
「大丈夫。おねぇさんっミズはぁ小食だから~」
「いや、だから――――ね」
会話を拒むかの様に突如ピンポーンと、あのベルの呼び出し音。
話を続けようとした矢先、あたしたちのテーブルに注文を受けようと、既に店員さんが待機していた。いつもなら喜ぶはずだけど、今のあたしには素直にそうできそうにもない。
とまどうがそれでも店員さんの手前、文句いう訳にもいかないので、一応注文する事に。メニューのソフトドリンクが数種類並んだ写真を指差す。
「えっと、じゃっこれで」
店員さんはあたしの指差した場所を一度見て、こちらに視線を戻してから微笑えんだ。
「ドリンクバーおひとつですね」
注文の確認を取ると、店員さんは手元の機械へ料理を入力。
続いてその様子を見ていた洋輔が、メニューの商品をあちこち指差し注文する。その動作や口調にはなんの迷いもない模様。