第4杯 ②
洋輔がバイクを止め、エンジンを切る。こちらに振り返った彼はメットを外して、あたしに言う。
「着いたぞ」
「じゃあ、降りるね」
「んっああ」
洋輔からバイクを降りるのに了解を得て、あたしはメットを彼に返す。いつもの場所にメットをしまった彼が駐車場を指差して言う。
「俺コイツを置きに行かねぇと」
「そうだね。じゃあココで待ってたらいいよね?」
「ああ」
同じ様にバイクから降りた洋輔はエンジンを切って駐輪場へ。
あたしは手押し車の様にバイクを押して歩く姿を見送って、目の前にある建物を観察し始める。
建物の下は駐車場と駐輪場があって、そこから建物の入口に続く階段。そんなどこにでもあるファミレス。
外壁にはおすすめのメニューの垂れ幕の様なものが吊るされている。それを見ながら、どのメニューもおいしそうだな、と目移りしていた。そこへ洋輔が声を掛けてくる。
「おい、入るぞ」
「うん」
戻ってきた洋輔にうながされ、あたしたちはファミレスに入る。
「いらっしゃいませ。大人2名様ですか?」
「いや、中に連れがいるから」
「お連れ様ですね。どうぞ中へ」
店員が軽く会釈してから、店内を腕だけで案内する。その前を何事もなしに横切ろうとする洋輔に、あたしは疑問をぶつけてみた。
「他に誰かいるの?」
「えっ言ってなかったっけ、か」
「うん。何も聞いてない」
「……細かい事、気にするタイプ?」
「ん――――時と場合にようるかな」
白々しい会話を交わして店内を進むあたしたちに、窓際の奥の4人用テーブルが並んでるとこから、誰かの声が聞こえる。
「洋ちゃん、こっちこっち」
あたしの視線の先にはバリバリのギャル系の女子高生が、顔を覗かせていた。ガラクタのロボットの様に顔を洋輔の方に向ける。
「てかっ誰?」
「んっ? 俺のかわいい彼女に決まってんじゃん」
また、彼女の方に視界を向きなおして、冷静にあたしは状況を把握しようと努めてみる。
「ああ、洋輔の彼女ね……って、そうじゃなくて」
「あっ? なんか問題でもあんのか?」
「ない訳ないでしょーがっ」
彼女に愛想良く手を振っている洋輔に、怒りに似た感情が湧くのだった。
「でっ何が?」
あたしの反応とは裏腹に洋輔の態度は悪びれる事もなく、とぼけるでもなく、なんとも鈍い反応。その上、全然問題にも気づかない様子。