第3杯 ⑤
「またまたぁ~。トボけちゃって」
「別にトボけてないんだけど……」
「ふ~ん、んじゃ、アプローチしてみよっかな」
「いいんじゃないの、別に」
「もうっ! 全然おもしろくないっ」
「何が?」
「その反応が、つまんないの」
「そんな事、言われても――――ね」
不服そうな弥生はさっきのニヤついていた表情をガラリと変え、つまんなさそうにしている。彼女は何を期待しているのか、あたしにはさっぱりわからないんだけど。
気を取り直した弥生はランチに手をつけようとして、口に運んだお箸をポロリと落とした。
「今度は何? どうかしたの?」
「あ……あれ――――」
「――――っん?」
弥生が指差す方を振り返るあたし。
後方でざわつく女子大生達。
ガラス越しに外を見ると、そこには、朝別れたはずの洋輔がいるのだった。
「……なんで、いるの?」
あたしは食堂を出た先の目の前にいる洋輔に、いつの間にか、問いかけていた。
洋輔は頭をポリポリかきながら、あたしに言う。
「あのさ、今日講義終わったら、飯食いにいかね?」
「急になんで? 食事に行かないといけないの?」
周りの女子大生達があたしたちを遠目に見ながら、ヒソヒソ話をしている。時々こちらを見てはキャッキャッしている。その事が少し気にはなるけど、そのまま会話を続けた。
「俺、今月ピンチなんだよ。今日誰のおかげで遅刻しねぇで、済んだのかな~?」
「な、何っはじめっから、それが狙いだったの……もしかして?」
「まぁ、否定はしない」
「呆れる――――もうっ」
「んじゃ、嫌でも迎えにくるからな、逃げんなよ」
「わかったよ、今日だけだからね。あたしだってお金ないんだから」
「サンキュー、じゃあな」
言いたい事だけ言って、洋輔は満足げにキャンバスの出口に歩いていくのだった。
いつまでもあたしはその姿をポカンっと見ていた――――誰かに声を掛けられるまでは。
「やっぱ、気があるんじゃないの?」
「そんなんじゃ、ないって……って」
あたしがその問い掛けに反射的に答えてから、背後を確認すると、そこに何故かいるはずのない弥生が立っていた。
「弥生――――いつの間に?」
「ん? さあ、いつの間にだろうね」
「ところで――――――会話聞いてたの?」
「えっいあ――――まぁ、そうなるのか……な?」
あたしを誤魔化そうと、首を傾げながら曖昧な態度をとる彼女。
「素直に聞いてた、で――――もう、いいよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて。しっかり聞いてましたデートのお誘いを」
ちゃっかり事実を認める弥生に、あたしは呆れながらも誤解を解くのだった。
「だぁ~か~らぁ、そんなんじゃないってば!」