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転生したらHP10000だった。  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』発売中
1章 5歳編

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冒険者モーリス(2)

 なんだその反応は。

 私がソファーから下りてお辞儀をしたからか、サリィも立ち上がってスカートを持ち上げ、お辞儀をする。

 それに対するモーリスさんとやらの反応、謎の硬直。

 な、なにぃ? その反応。

 

「……も、もしかしてとてもお嬢様か?」

「はい。俺の妹ですから! 優秀な淑女ですよ!」

「あー。なんかそういやぁそんなこと言ってたなあ。めちゃくちゃ可愛くて優秀な妹がいるって」

「そうなんですよ! 可愛いんですよ! 見てくださいこの愛らしさ!」

 

 ああ、口火を切ってしまった。

 モーリスさんが瞳を輝かせている兄様に驚いて一人がけソファーの背もたれにしがみつく。

 私が二人がけソファーに座り直すと反対に兄様が立ち上がり、同じくすでに立っていたサリィとともに『イリヤ・お嬢様が可愛い』賛歌が始まった。

 これが始まると大変だ。

 まあ、この場に父様や母様やブロッサ兄様やルイシス兄様がいないだけ短くなるかな?

 お茶を飲みながら、長い兄様とサリィの話が終わるのを待つ。

 我がことながらなんでこんなに私を褒める言葉が出てくるのか不思議でならない。

 私は別に兄様にもサリィにも、こんなに賞賛されるようなことはしていないと思うのだけれど。

 

「もう、わかった、わかった! 可愛いのはわかったって!」

「え!? まだ半分も終わっていませんよ!?」

「いい、いい! その前に、お前たちの話をしよう! 朱雀領に行きたいんだろう?」

「あ」

 

 忘れてた、みたいな顔をして兄様とサリィがソファーに着席。

 そうだ、朱雀領に行きたいのに待たされているんだ。

 私たち、朱雀領に行けないの?

 

「さっき俺に手配が来ている、と言っていませんでしたか? なんですか? 手配って」

「おう、それな。実はカルヴァ王国騎士団からアルドに名指しで依頼が来ているんだ。うちのパーティー……『金の大槌』にな。お前はソロ活動しているから、うちのパーティーに依頼書を出してこられても困るんだが」

「えっ……!? ……っ、すみません」

「謝んな謝んな。お前が悪いわけじゃねーのはわかってるよ」

 

 バシィ! とものすごい音を立てて兄様の背中を叩くモーリスさん。

 あんまり大きな音なのでびっくりして兄様を見たが、兄様は少し前に動いただけ。

 こ、これは兄様の体幹が凄まじいのかあの勢いでも実はモーリスさんが手加減していたのとどっちだ?

 

「しかも王家からの依頼の割には意味がわからん内容だ。カルヴァ王国メイジス公爵家長女、ミリアリス嬢の護衛。期限は要相談。まるでお前を王都に戻すのが目的に見える」

「そうですね。同時にイリヤの護衛から、俺を引き剥がすつもりみたいだ」

「そう! それだ!」

 

 指パッチン。

 すごーい、アレできる人本当にいるんだー!

 いいなあ、私も指パッチンできるようになりたーい。

 頼んだら教えてくれるかなぁ?

 

「なんでこんなちっさいお嬢さんを、妹とはいえ王都から出して朱雀領に連れて行きたい? 他の国に行くよりゃましだが、朱雀領だって安全な場所じゃねぇ。なんぞのっぴきならん事情があるんだろう? もし話せるんなら話しな! うちのリーダーも心配してたぜ。場合によっちゃ手を貸したっていいとも言っていた!」

「ええ!? 旦那様が!?」

「『金の大槌』が、でございますか!?」

 

 兄様だけでなくサリィまで大きな声を出す。

 なに? 誰ぇ?

 

「……ン? お嬢さん、俺が『金の大槌』のメンバーだとよくわかったな? アルドは言ってなかったと思うが」

「モーリスという名。アルド様の関わった最初の冒険者、ですぐにわかりました。あなた様はご自身が思っているよりも有名でいらっしゃいますよ。――世界で三人しかいない黒級冒険者、クルツ・ウォン・アルダ。彼が率いる少数精鋭で最強の冒険者パーティー『金の大槌』。その副リーダーにして大男の見目に合わずありとあらゆる剣の扱いに長けた銀級冒険者」

「おいマジかよ。俺って貴族の侍女が知っているくらい有名になったのか!?」

「たまたまうち(オルヴァーニュ公爵家)は俺がいるので、普通に調べられただけだと思いますよ」

 

 なんか有名な人らしい。

 お話長いなー、飽きてきちゃったかも。

 

「話を戻しますが、『金の大槌』がお嬢様の味方になってくださるというのは本当でございますか?」

「いや、そっちのお嬢さんつーか、知己のアルドの、なんだが……いや、まあ、困ってんなら弟分の力になるのは吝かじゃねえって話だ。もちろん事情を聞いた上で判断する。こっちも無償奉仕は簡単にできねぇし、相手がわかってんならおいそれ喧嘩を吹っかけるつもりもねぇし」

「そ、そうですよね。話したら――いや、でも……」

「そのあたりの判断はお前がしろ、アルド。この中じゃお前が一番責任が重い立場だろう?」

「……そう、ですね」

 

 出されていたクッキーに手を伸ばす。

 兄様、なんだか深刻な顔で悩み始めてしまった。

 それからしばらく腕を組んで悩み始める兄様。

 部屋の中では私がクッキーをもぐもぐしゃくしゃくする音が響いた。

 

「話します」

「わかった。聞こう」

 

 兄様の判断も、それを受け入れるモーリスさんも、私はその覚悟もよくわからぬまま最後のクッキーを食べ始める。

 私がクッキーを食べ終わっても兄様の説明は終わらず、私はお茶を一杯飲んだのでトイレに行きたくなった。



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