加護の力
「きゃあああ!」
「お嬢様!?」
メイドが叫ぶ。
サリィの声。
うちの護衛騎士がすぐさま使用人に剣を振り下ろし、私は倒れてすぐに母様が抱き起こした。
痛い。熱い。
ど、どこを刺されたの?
身体中が痛みと熱で訳がわからなくなっている。
小さな体に、突き立てられたナイフ。
私の視界では確認ができない。
でも――
「ああ、いたかったぁ! もー、なにー!?」
「えええええ!? イ、イリヤ!?」
「なんでそんなに元気なんだ!? 大丈夫なのか!?」
「え? うん。いたいけど……だいじょうぶ」
あー、痛かった。
ナイフ、どこに刺さっているんだろう?
刺さっているし、痛いけれどなんか大丈夫そうだ。
これは、きっと女神様の加護のおかげだ。
体力が、多い!
普通なら死んでいそう。
「どういうことだ……!? イリヤくらいの年齢の子どもでは即死のはずだぞ」
「今治癒魔法をかけるわ。あなた、ナイフを抜いてあげて」
「そうだな」
「イリヤ、大丈夫!?」
「だいじょうぶー」
いつの間にか、ナイフを振りかざした使用人は城の騎士たちに拘束されていた。
兄様も駆けつけ、母様が父様がナイフを抜く瞬間治癒魔法で傷を塞いでくれる。
あ、痛いのなくなってあったかい。
すごい、これが治癒魔法。
「いたいのなおった! かあさましゅごい!」
「ああ、よかった……! 本当に、よかった……! イリヤ……!」
「本当に、本当にお前は……! 無茶をする!」
「よかった……イリヤ……!」
父さまにも母様にも兄様にもしがみつかれる。
いやあ、私も本当にびっくりしたー。
なんで生きてたんだろうって思ったー。
「イリヤ嬢、ほ、本当に大丈夫なのですか?」
「これはいったい……!? まさか、生まれながらの加護持ちなのか……!?」
「わ、わかりません。調べてみなければ……。だが、そんなことは今はどうでもいい。ああ、イリヤ、本当に、よかった」
父さまが改めて私を抱き締める。
その時、いつも険しい表情の父様が涙を流しているのに気がつく。
父様だけでなく母様も。
泣くほど心配をかけてしまった。
あ、サリィも泣いている。
なんかごめん。
「ハッ! ……へ、陛下、申し訳ありません。娘は帰宅させてもよろしいですか?」
「う、うむ……息子を再び助けてくれた礼は、後日にしよう」
「ありがたく存じます。フラワ、イリヤを連れて先に帰りなさい」
「わかりました」
「ほ、本当に大丈夫? 城の部屋を使っても構わないわよ? 医者もすぐに手配します」
「お心遣い感謝いたします、王妃様。ですが、イリヤは自宅で主治医に診させますわ。ドレスにも血が大量についておりますので、城に入れるのは穢れになりかねませんもの」
「ッ……」
母がそう断ると、王妃様も顔を青くして口元を手で覆う。
確かに、私今ものすごい格好。
ドレスは縦に引き裂かれ、血まみれ。
兄様がマントを外して私の体を覆い、そのまま抱き上げる。
「イリヤ、痛いところはない? 大丈夫? すぐに家に帰ってお医者様に診てもらおうね。母様の魔法で治ってはいると思うけれど……」
「いたいとこない。だいじょうぶ」
「魔法も完璧ではないわ。それでは御前を失礼いたします」
「う、うむ。大事にな」
「「ありがとうございます」」
「ぐれんおーじ、またね」
「っ……!」
ぐるぐる巻きにされているので、手を振ることは叶わなかったが最後にグレン王子に声だけかけて――まるでそそくさと母様と兄様はサリィ立ちを連れて城を去る。
急ぎ足とはいえ、なんか本当に大急ぎ。
馬車の中に入り、城門を抜けてしばらくすると母様が大きく息を吐き出した。
「は、はああ……なんてこと……! イリヤが助かったのはよかったけれど、これでは間違いなく生まれながらの加護持ちではないの……! しかも、それを国王陛下や王妃様に知られてしまうなんて……! ああ、イリヤ……!なんて可哀想なの……!」
「え? お、王家に加護持ちってバレるの、なにかまずいの?」
私の代わりに焦ったような兄様が母様に聞いてくれる。
もしかして、それで慌てて帰ってきたの?
なにかまずいの?
なんか怖いんだけれど!?
「ああ、あなたは大丈夫よ。そうじゃなくて……イリヤは女の子だから」
「女の子だとなにかあるの?」
「というより……条件が揃ってしまったのよ。女の子、生まれながらの加護、そして――致命傷を受けても、死ななかった。これら三つの条件を満たす女性は女神ブロントズウェール様の器であるとされているの。もうすでにグレン王子の婚約者を了承してしまっているから、大丈夫かもしれないけれど……女神ブロントズウェールの器とされた女性は、世界中の王族から狙われる。女神神社からもきっと聖女になるよう求められるでしょう。王家が守ってくれるとは思うけれど……それでも……」
言葉を詰まらせる母様。
どんどん不安が広がる。
だって母様は、ものすごく顔をゆがめるんだもん。
なに? なにがあるの?
「……っ一緒に暮らすのが、難しくなるのよ……」
「え……」
「イリヤ……わたくしの、可愛いイリヤ……!」
抱き締められる。
母様と……家族と暮らせなくなる?
まさか、そんな……。
「イリヤ、おうちにいられなくなるの……?」
「いいえ! そんなの嫌よ! イリヤはお母様と一緒よ! もっともっと、母はあなたに教えたいことがたくさんあるもの! 一緒に……成人するまで……一緒に……っ」
「「………………」」








