元カノさんいらっしゃい!マウント?いいえ、夫の絶倫に使わせていただきます
この作品は、シリーズタグの君を愛することはないと言ったのにの短編ばかりの連載、第五弾になります。
今までの経過を見ていただけるほうが、より楽しめるかと思います。さくっと短編なので読んでいただけます
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「はあ、腹が立つわね。やっぱり貴族がいいとでも言うのかしら?あのくそ男!」
かつて侯爵の愛人の座に収まり、本妻パトリシアの代わりに屋敷内を好き勝手にしていたセラフィーヌは、腹立たしくなり爪を噛んだ。
「せっかく、引っ掛けた金のなる木が、まさかのあんな色気もない女を選び直すなんて……」
ミレーの憎き本妻、パトリシアの顔が頭に浮かぶ。
色気もなければ、磨いてないから髪もぱさついてるし、手もなんか荒れてるし、洒落っ気もないし――
「ただ、ちょっと顔がいいのと、若いだけじゃん!」
ああいうのに、負けたと思うと一番腹が立つ。
しかも、私は必死でミレーの愛情を確保しようとしているのに、あの本妻からはその空気を微塵にも感じない。
「くそが。あの小心者の男め」
◇
そんな夫の元愛人が、私の知らない遠いところで叫んでいるなんて知ることもない――
侯爵ミレーの妻である私――パトリシアは、真面目に悩んでいた。
朝、目覚めると、ヨレヨレになって絶倫ミレーからのハグからの手を逃れる。
「おかしい、明らかにおかしい」
前日からストックしてある、料理長スペシャル絶倫ドリンクを、蓋を閉めてしゃかしゃかシェイクする。
決してミレーには知られてはならない、逆絶倫ドリンク――
中身は、にんにく、すっぽんスープ、卵に蜂蜜、玉ねぎ、生姜に……おっと、これ以上は、侯爵家の秘伝……
それを常温一気飲み
「ぶはぁ、まずい」
グゥーーーーっ、リバースしそう……
とにかく、ミレーには飲ませてはならない。
その効果を知られたら、私の身はもたない……
私は再度チラッとミレーを見ると、私がベッドから出たことにも気づかず、すやすやと眠っている。
「こんなに無防備に寝ていて、今までよく他の女性に既成事実をつくられなかったもんだわ、あっ、たくさん既成事実を作ってたから、別に構わないのか?」
私は、先ほどまでミレーと寝ていたシーツを見て顔を曇らせる。
それは、あきらかに夜伽の事後ですよと明確にわかるものになっていて、よくこのシーツの上で眠れるものだと思われるぐらいのものだった。
それを見ると、セラフィーヌが私にシーツを洗って欲しいと言っていた時のことを思い出すのだ。
「嫉妬しても仕方ないわよね……ミレーだって悪気はなかったんだし……」
私は、料理長お手製絶倫ドリンクで、少し持ち直したような体になり、熱いシャワーを浴びる。
シャワーを出た後も、ミレーにバレないように急がなければ……
もし、万が一目覚めてしまったら、再び絶倫ミレーがゾンビのように襲いかかりベッドに連れ込もうとするに違いない。
「馬房に急げ!」
朝日が上がり始め、私はヨレヨレと体を引きずりながら、馬房に向かう。
◇
そんな、妻の気持ちなんて微塵にもわかっていない夫のミレーは?
「うわぁ、パトリシア底なしすぎたよ!今日もいないじゃん!」
ミレーは、執事のテイラーに叩き起こされていた。
新婚から?
いや、新婚は、自身のゲスな対応で、初夜数分しか一緒にここにいたことはない。
夫婦として、私がやり直したいとお願いして、一緒の寝室に入ってからのことになるが、朝いないのはいつものことだった。
コトがあろうとなかろうと、目覚めた時に妻パトリシアが部屋にいたのは本当に数回。
それも、目覚めのシャワーを浴び終わった後とか、くっさい訳わからないドリンクを飲み終わった後とか……
ベッドで、まだ眠っているパトリシアにちょっかいをだしたいのに!
「奥様なら、すでに馬の運動をさせた後、闘犬たちのごはんを料理長からもらった肉や野菜で作っておられてますな。その後は、旦那様の仕事がスムーズにできるように、資料を整えられたり……まあ、ご実家のお父上の仕事も手伝っておられたようで働き者ですよ」
テイラーは、孫を見るような顔で妻パトリシアのことを語る。
それだけに、テイラーの主人は私ではなく、もうパトリシアの執事だ。
「おかしいなあ……今日こそ急ぎの仕事はないから朝から晩までいちゃいちゃしたかったんだよ。だから昨夜は激しめに、起きれないようにしたはずだったのに……」
「ミレー様、昨夜は?ではなく、昨夜も……の間違いでしょう。仲がいいのは分かりますが、そういうのは私の前ではなく、心でつぶやいてください。部屋も掃除を入れますからね、着替えて朝ごはんにしてくださいね」
「分かってるよ。ただ、朝はパトリシアがいつもいないのが寂しいだけ。うーん、どうやったら朝も一緒に居られるかなあ?」
シャワーを浴びて、身支度をして、パトリシアが贈ってくれたタイをつける。
パトリシアからは、毎日同じタイをつけないでくれと言われているけど、これを鏡に映すだけで、自分のことを純粋に愛してくれるパトリシアの気持ちに触れられて、ミレーの気持ちは、穏やかになり、少し自分を好きになれる。
今までの、どの女性とも違う。
「ねえ、私がプレゼントしたものをつけてくれないの?」
「私もミレーとお揃いにしたいわ」
こう言われて、ミレーは、今までルーチンワークのように、同じカメオのブローチやネックレスを贈り続けていた。
セラフィーヌの時は、今から思えば、何も持っていないことを切なそうに語られて、いつも色んなものを買い与えていた。
それが、パトリシアだけは、自分に対して見返りがない純粋なプレゼント――
だが、自身の過去の過ちのせいで、ミレーにとっては、本当に大切なパトリシアからのプレゼントがこれに変わってしまったという、自身の行動の戒めのタイでもある。
それを締めるだけで、もっとパトリシアを大切にしたいと。
もっと触れ合いたい、もっと彼女を理解したいと心の底から思うのだ。
だが――
「えっ!パトリシアが、積極的にお茶会を?」
そうマイヤーから聞いたミレーは眉を顰めた。
侍女長のマイヤーは、顎に手を置き、悩ましそうな顔をする。
「奥様はしっかりされてますからね。派手なことはしないし、こちらにもどんな人が来るのか事前に教えてくださいますし、ご丁寧にうちの領地で出来たお酒やご実家のガラス製品までお土産もつくられて歓迎されるのですけどね……」
パトリシアは、あまり貴族の社交に積極的ではない。
実際には美しく、聞き上手の穏やかな女性として認知されているし、私の妻として、どこにでも出ていけるのに、自信はないと話す。
そもそも人を蹴落としたり、噂話をする貴族特有の駆け引きも苦手なのだという彼女が、積極的にお茶会?
「しかも、毎週ですよ」
「毎週?お茶会をすると報告は受けていたが、挨拶は不要と言われていたから、顔は出さなかったんだよ」
マイヤーから告げられて、何が起こった?とミレーは目を白黒させる。
おかしい!これは絶対何かある――
「おかしくないか?」
「おかしいですし、坊ちゃまが顔を出さないのは正解だと思いますよ」
マイヤーはため息混じりに、何を考えているんだろうと口を開く。
「だって、先々週は18才の時に坊ちゃまがお付き合いした女性たち、先週は19歳で、今週は20歳……」
慌てて、ミレーは聞き返す。
「待って、待ってマイヤー、今なんて言った?私は、何か聞き間違えたのかな?」
何が楽しくて、過去の元カノを年数別に集める必要がある?
いくらパトリシアだと言っても奇天烈すぎないか?
「もう一度言いましょうか?坊ちゃまの18、19、20歳にお付き合いされていた人を全てです。坊ちゃまは毎月彼女を変えておられましたから、1月の彼女から始まり、ちゃんと12月の彼女までオールスター大感謝祭ですよ。なんなら、復権された彼女様なんて、先々週も来たけど今週も来るとか、二週連続とか……」
ミレーは、唖然とする。
「それは、私にとっては黒歴史すぎるお茶会という名の会合だな。どうしよう、影を使って中身を確認するしかないか……」
パトリシアは、とても素直で可愛くて優しい妻だが、出会った時から私の斜め上をいく、ぶっ飛んだ性格でもある。
昨夜もニコニコしていたし、夜は仲良く出来たし、毎日のようにスキンシップはとっているし……
「なにかあるよね。それも私が想定していない何かが……」
◇
「皆様、ようこそおいでいただきました」
私、パトリシアは、にこやかに、ミレー20歳の元カノの集いを開催する。
ミレーの元恋人なので、年齢は全て私より上。
ミレーは、マメなのか?遊びと割り切りたかったのか、必ず毎月彼女を変えていたらしい。
よって、1月の元カノ、2月の元カノと全12人の元カノが丸テーブルに集い、今回の意図の探り合いが始まる。
「パトリシア様は、愛人様と一緒に生活されていただけあって、面白い趣向を凝らしますのね」
「気分を害されたなら申し訳ないですわ。私、皆様もご存知の通り、本妻としてミレーの横に立ったのは日が浅いでしょう。だから、夫から愛情を注いでもらえるように皆様の知っているミレーを教えていただきたかったの」
そう少し俯き加減に返答すると、あら?と年上の貫禄を見せるとばかりに、一斉に元カノマウントと本妻マウントが開始される。
「そうなのよ!なんで夫って結婚したら愛人を作るのかしら?」
「あら、でもミレーは、結婚前に愛人を連れ込んだんでしょ?」
「パトリシア夫人、しっかりなさって!結局は奪い返したんですもの」
そんな感じで、導入はオッケー!
私は今日こそ有益な情報をと意気込む。
「でも、ミレーは付き合っている時は優しいけど、切るときはすごく冷たくない?」
「そうよ!私なんて、8月が終わったからさよならだねと言われたんだから」
「それはひどいわ。私は9月が始まったから一ヶ月付き合おうと言われたわよ」
それを聞きながら、私は冷静にミレーの若かりし頃の交際遍歴を把握する。
別れ話は、どの年齢も同じで、月単位――
本人たちは認めないけど、その段階で、女性側もミレーが初めてのお付き合いではないようだし、なんだったら、結婚後の不貞もある。
本当にお互い割り切った遊びという感じだ。
バレずに後腐れないのが一ヶ月ぐらいということなんだろうか?
私は、首を傾げる。
「お互い大人のお付き合いで、一ヶ月が済んだら、どちらかが縋るということもなく?」
私が、そう聞くと、10月の元カノ、エレミー夫人が頷いた。
この人は18歳の時には3月の彼女として、一ヶ月付き合ったらしい。
「そうよ。パトリシア夫人、絶対に縋るのは禁止よ。ミレーみたいなタイプは追わせないと。でも、ミレーは結婚願望はなかったのよね。これだけ女がいても、本妻は貴方なんだし、自信を持ったらいいのよ」
そう励ましてくれる。
エレミー夫人から見たら、私なんて小娘だから、かわいい若奥様が夫の愛を繋ぎ止めるために右往左往しているように見えるらしい。
さて、そんな導入はどうでもいい――
早く本題に入りたい。
「ちなみに、エレミー夫人から見て18歳のミレーと20歳のミレーとでお付き合いに変化はありましたか?ほら2年も経てば彼も大人になるわけですし……」
「うーん、妻の貴方にどう言えばいいのか迷うけど、優しいし、きめ細やかさはやっぱり20歳のほうが……ね?」
つまり、夜伽は優しく上手くなっていたわよ……
なるほど、そこまでは想定内――
私は頷いた。
「その優しさが時には牙を向くこともあったでしょう!エレミー夫人ほどの魅力的なお人なら!」
もう一声!
私は、絶倫ミレーの対処法を聞きたいのだ。
だが――
「ミレーが?ないない!」
そこに8月の元カノが割って入る。
「だって、ミレーはマメなのよ。小さなイベントでも欠かさないし、ほらあっちの方でも絶対に無理強いしないじゃない?気が乗らなければ、いいよ、みたいな……」
「気が乗らなければ……しない……そんな出来事が?」
私が目を見開いて、わなわな震えると、2月の元カノが「えっ?」という顔で私を見る。
「えっと……そりゃ結婚してたら別よ。たまには気が乗らなくてご無沙汰ってのは私たちもよくあることよ。心配しなくてもいいわよ」
どうやら、ミレーから飽きられたと勘違いされたようだ。
だが、ミレーでも、気が乗らないことがあるのかも……
「ミレーは、色んな人と浮き名を流して来たけど、ずっと紳士だったのよね。だから、たまには趣向を変えてみるのも一つかもよ」
みんなの中で、最近飽きられた若妻という設定になりつつあったが、今度は先輩妻としてのアドバイスが始まる。
もらったアドバイスの逆張りをしよう!
私は決意新たに、アドバイスに対して神妙な顔をして聞く。
「例えば、最初に薬を仕込むとか……」
「薬ですか?」
確かに、最初に睡眠薬を混ぜ込んで仕舞えば、絶倫は長続きはしないかも……
いえ、ダメダメ!
ミレーは超がつく絶倫!
薬でふらふらしても、変なところが紳士だから、意地でも途中で寝るはありえないと思うわ。
きっとフラフラしながらコトに及んだら、一晩が終わらないかもしれない!
「他には……」
薬は却下だ。
わたしは何がなんでも、ミレーを普通に一発で満足できる男にしなければならない。
ただ、ミレーにとっての普通とはどんなものだろうか?
「あの……皆さんは、ミレーと会う時はどんな服装で過ごされたんですか?」
彼女たちは、恋人ではあるが、遊び相手なのだ。
だから、即流れ的に、いちゃついてもおかしくない。
どんな遊び方をしたのだろうか?
「えーっ、服装?その時の流行の服よね。ああ、でもコルセットはその……つけてなかったわ。私はつけなくても、綺麗だってミレーは言ってくれていたし……」
6月の元カノが、どう言えばいいのかしら?わかるわよね?と、さりげなく元カノマウントをとってくる。
「そ、それだったら私だってそう言われたわよ」
3月の元カノが、元カノ同士の戦いを始める。
「私は、いっそ化粧なんてなくてもいいと言われたもの!」
「あら、私は君の首筋を見ると口付けたくなるって言われたわ!」
だんだんヒートアップし始めて、奥様がいるのにやめなさいよといいつつ、みんな自分の方が褒められたと言い合い元カノ同士がどれだけ自分の方が愛されたか戦い始める。
それを見て、そうそう!もっとその中身が知りたいのよ!言い合ってちょうだいと私は、満面の笑みで会話に耳を傾ける。
だが、どの話も今の私の参考にはならない。
このままではダメだわ
普通の服ですごす?
コルセットをしなくていい?
化粧なんていらない?
首筋にキスしたい?
そんなの、我が家の夜伽どころか、日常の一コマじゃないの……
私も結婚して2年が経ち、ここで美味しいものをたくさん食べるようになった。
おかげで、だいぶ体に肉はついた。
だが、コルセットなんて必要ないし、むしろ締めるより、胸の辺りの詰め物がいる。
化粧は普段からしない。
私の首から下は、口付けどころか、ミレーのキスマークで、むしろついてない場所を探したいぐらいだ。
だが……みんなと一番違うところがある。
「つまり、皆さんは普通のデイドレスで……その……ミレーと関係を持ったわけですよね?」
瞬間――元カノ同士のマウントの言い合いが止まり、シーンとなる。
「そ、そうね。若い頃のことだから、ミレーを許してあげて。」
「そうですか……」
私はがっくり肩を落とす。
それを見て、みんなは焦り始めたように、どうやればミレーを振り向かせられるかを必死で話し始めるが……
おかしいわ……
20歳の頃はまだノーマルということなのよね?
いいえ、それどころかセラフィーヌ様の夜伽前の姿すら、今の私に比べるとしっかり布の面積があるわ。
だれも、紐の服や全身ストッキングな服、ウサギの耳や、網のタイツ、メイド服を着せられていない……
まわし以来、ミレーは色んな服を私に着せて楽しむのだ。
明らかに、元カノさんも愛人も優遇されている!
私は怒りでわなわなと震えたのだった。
◇
「じゃあ、影から見て、パトリシアはみんなからマウントを取られて落ち込んでいるように見えたのかい?本当になんで、元カノを集めているんだろう?」
影に張らせた結果を聞き、ミレーは、自身の過去のせいで、パトリシアに嫌な思いをさせてしまったと顔を曇らせた。
【ミレー様を振り向かせるには、縋ってはいけないとエレミー夫人からアドバイスを受けておられました】
「エレミー……聞き覚えはあるけど誰だっけ?」
ミレーは「エレミー?」という聞き覚えはあるけどなぁ……
顔が思い出せず、うーんと唸る。
そうは言っても、一時のアバンチュールを楽しんだ相手なんだろうけど……
そんな忘れた顔の女性から、パトリシアはアドバイスを受けたのか?
「わかった。とりあえず、パトリシアは私がいつ愛想を尽かされるか一人で不安に思っているということだね……」
話の流れからそう判断する。
「他には?」
【そうですね。かつての交際相手が、ミレー様は、気が乗らない日は関係を持たなくても良いと言っていたのを聞いてショックを受けておられました】
「なんだって!充分な愛は毎晩注いでいるんだけど……私が気が乗らなくて、パトリシアに飽きることがあるんじゃないかと心配しているってことだよね?」
【ええ、周りもパトリシア様が落ち込んでおられるので夫婦ならそんな日もあると言っておられました】
それを聞いて、ミレーは頭を抱える。
「かわいそうに!パトリシアが相手でそんなことがあるわけないじゃないか!実際気が乗らない日なんてないし。それから?」
ミレーは天井を見つめ、影の次の報告を聞く。
【あと、あまりに主人が乗り気でないようなら媚薬をもってはどうかという提案に悩んでおられるようでした】
「媚薬!そうなんだよ。パトリシアは底抜けに絶倫なんだと思う。普通ならもう抱き潰されて、朝も意識がないはずなんだ。それなのに、朝から乗馬してるんだよ……そっか……まだ足りないんだ……」
男として、まだまだ……
いや、一人の女性を満足させることすらできない自分に幻滅してしまう。
やっぱり、10歳も若い妻なんだから、あのレベルじゃ彼女には足りなかったか
ミレーは、がっくし肩を落とす
「どうしようかなぁ、もっと趣向を凝らして満足感を増やし方がいいよね……」
報告のみの影に、なんとなく相談してしまう。
【趣向と言えば……】
「えーっ!まだあるのかい?」
【ええ、みなさん、デイドレスで過ごされたあとミレー様と一夜を過ごされていた話を聞いてショックを受けておられました。あとは、当時の女性におっしゃった口説き文句ですよね……】
その内容に、ミレーは更に真っ青になる。
「えーっ!いろんな趣向を凝らして、パトリシアを飽きさせないようにしているのに!でも、そっかぁ、確かに盲点だったよ。パトリシアってデイドレスよりそのまま乗馬服で過ごすことが多いから、意外にも貴婦人バージョンを忘れてた。」
コルセットなんて、最初から不要な体だから、むしろお肉をつけて欲しいと願ってるしね……
胸は……まあ、私が大きくしたらいいし……
キスマークかぁ、セラフィーヌも含めて、歴代の彼女につけたことはないんだけどな。
だって、パトリシアは付けておかないと他の男に掻っ攫われそうな危うさがあるんだよ。
だけど会話の流れから考えたら……
「やっぱり見える首筋にキスマークをもっとつけろということだよね」
首から下には、ばっちり付けてドレスとの際にギリギリ見えるレベルにしていたんだけど……
「ありがとう、しばらくパトリシアについておいて」
自分が悪いのだけど、過去の女は妻にとって碌な情報を与えない。
それでも、なぜか元カノたちから、パトリシアは絶大な人気を得ている。
最後には自領も実家の領地のアピールまでして、また集まりましょうねと手を振って帰る関係性――
私の妻、最強すぎないか?
そう、少し微笑みながら目線の先に金庫が見える。
私は、周囲に誰もいないのを確認してそっと金庫の扉を開けた。
送り主は、パトリシアと両思いだと思い込んでいるセルビオ。
妻の幼馴染だが――
封の中身は、少女の下着だ。
それも、かつてのパトリシアのもので、そんな姿で二人で過ごしている関係だったと書いてある。
「もはや、ストーカーだな」
ミレーは眉をひそめ、パトリシアが知らないうちに、パトリシアの父であるアディール伯爵と話をすると決めた。
伯爵領の中の子爵の息子でもあるし、今までは大目に見ようとしていたが、明らかにパトリシアへの執着が強すぎる。
変な噂があってもかわいそうだ……
彼女は私以外に体を許したことがないのは、私がよく知っているんだから――
いろんな服を着させて楽しんでしまうのは、パトリシアに飽きさせたくないという気持ちもある。
だが、頭のどこかで、私はセルビオの知らない彼女を知っているんだというどこか対抗心があることも認めざるを得なかった。
「全く、ここで大人の余裕を見せないといけないのにな……でも、パトリシアの不満はわかった。よし、今日は貴族の夜シリーズだ。デイドレス責めからの首にキスマークだよね。ちゃんと妻の願望を叶えるのが大人の夫の役割だよ」
ミレーは、セルビオから送られたものを金庫にしまい直し、颯爽と夫婦の寝室に向かっていった。
◇
夫、ミレーから、体の見えるところあちらこちらにキスマークをつけまくられた夜――
「明日から君のご実家にお邪魔するから……」
「……そーですかぁー……」
そんな声がした気がするし、そんな返事もあった気がする。
散々、過去のことで君を苦しめてるんだね!
ごめんね、許してとは言わない!
ちゃんと君にしか愛がないことを証明するから!
いえいえ、お構いなく!元カノを呼んで、楽しく同窓会を開いただけですので――
そう言えたかどうか?
「これはダメだ。デイドレスプレイな上に、首から上にまでキスマークが……ああ、これを使用人のみんなに見られるなんて。やっぱり、遊び相手のアドバイスじゃ参考にならないということよね」
私は、ミレーに愛され尽くした体を見てがっくり落ち込んだ。
実家の領地の灌漑事業の関係で、今回はミレーだけ父に顔を出すため、数日留守にするという。
「ミレーがいない今しかチャンスはないわよね」
私は、君と数日会えなくなるだけで、胸が張り裂けそうでたまらないと叫び回るミレーを馬車で見送り、考えを決行する。
部屋には誰もいなくなった。
よしっ!
「影さーん!いるんですよね?いないわけないですよね?絶対ミレーが私につけてますよね」
【…………】
返事がない。
だが、あのミレーが私に何もつけないわけがない。
「絶対、いますよね?なんだったら私たち夫婦の営みまでちゃんと見てますよね。見物料とりますよ?勝手に私たちを、おかずにすることなんて許しませんからね」
キッと天井を睨みつける。
すると――
【主人の命により、夫婦の時間にはそこにはおりません。きちんと周辺警護に集中しております】
おっ!返事があるじゃないの!
パトリシアは、にまっと心の中でほくそ笑む。
「そうなの?ねぇ、教えて欲しいんだけど……あなた、セラフィーヌ様の様子も探っていたのよね?」
【……しゅ、守秘義務です】
「いいの。それはミレーから聞いて知っているわ。まさか?今でも?」
【ち、違います!セラフィーヌ様がご結婚されて、落ち着かれたのを確認してからはパトリシア様の警護のみ承っております】
影も、主人に似るのかしら?
語るが落ちる――
「そう、そのセラフィーヌ様の居所を教えてちょうだい!」
【わ、私の主人はミレー様ただお一人。主人を裏切ることは……】
そういわれて、パトリシアはふんと鼻息を立てる。
影さん、ごめんなさいね。でも、ここで引くわけにはいかない。
再度、キッと天井を睨む。
「そう、私たちの夫婦の時間は周辺の警護……ね。うちは防音じゃないから、さそがし私の声はダダ漏れよね。ふーん、それを聞いてあなたは、オカズに……」
【し、しておりません!断じて!】
私は、うんうんといいつつ追い打ちをかける。
「わかってるわ。でも、聞かれているのは恥ずかしいからミレーに言うことにするわ。影さんは、夫婦の時間、私の営みの声を……」
【うわああああああっ!ダメです!主人はあなた命!切腹を命じられます!】
「よね?だから協力してちょうだい」
勝った!
ミレーはとんでもない嫉妬もちの夫だ。
使用人も、テイラーと馬房以外では男性を私に近づけない。
それが、影とは言え夫婦の内情を見られていると知ったら……
ふふっ!
こうして、セラフィーヌ様の居所を手に入れる。
「あら?隣の領地……馬車で一日かかるのか。それなら馬で駆けた方が早そう。だけど……」
私は、マイヤーにお願いして侯爵夫人の格好を念入りにしてもらう。
「珍しいですね、奥様がこんなに着飾るなんて……」
「うん、流石に乗馬服で会いに行くのはね……セラフィーヌ様は、今までの元カノとは違う気がするの」
首元のキスマークは出来るだけ目立たないように……
きちんと貴族の奥様に見えるようにしないとね。
そう考えながら答える私に、マイヤーは持っていたブラシをぼとりと床に落とす。
「セ、セラフィーヌに会いに行くですって!」
◇
「こんにちはー」
馬車で、奥様っぽく訪れたのは、セラフィーヌが嫁いだと言われる商家。
格式はそこそこ高いのか?
門構えもそれなりだし、お店も貴族が馬車でやってくるとなると、お出迎えから番頭らしき人が慌てて駆けつけてくる。
「ロッケルバンパーのものだけど……セラフィーヌ様おられるかしら?」
私はニコリとして前に進む。
前もって連絡をしてもよかったのだが、変にかしこまられても困るし、夫の絶倫のヒントを聞きにいきたいとはいえないし……
「あの……私、セラフィーヌの夫であるトライプと申します。妻が、奥様にかつて失礼を働いたと聞いてはおりますが、また何かしてしまったのでしょうか?」
穏やかな、真面目そうな男性が、私に頭を下げる。
あらあら!いい人をセラフィーヌ様ってば見つけたじゃない。
目の前のどちらかとひ弱そうな男性は、どう見ても絶倫には見えないし、数多い恋人も愛人もいなさそうだ。
「いえ全く。かつての交流を深めにきただけですわ。で、セラフィーヌ様は?」
私は、にっこり微笑み、心配ご無用であることを告げる。
だが、呼ぶまでもない。
そこには、この世の中のすべての負のオーラをぶつけてやると言わんばかりの勢いで、私を睨みつけるセラフィーヌがいた。
◇
「お久しぶりですわ。セラフィーヌ様。突然ごめんなさいね。これ、つまらないものだけど、うちの実家の領地で新しく売り出しているガラス細工ですの。東洋のかんざしというのをヒントに作った道具ですので良かったら使って感想を教えてくださると嬉しいわ」
セラフィーヌは、流行やおしゃれなものにめざといと聞いていた。
彼女から、率直に意見をもらったら、その意見は父に伝えておこう。
そう思い渡すと、じろっと見て、ふんっと鼻であしらわれる。
「あら、ダメですか?」
「ダメっていうか……まず、この形がそもそも主流じゃないんだから、今の流行りのものに取り付けるようにしないと誰も買おうとなんてするわけないでしょ。センスがない女の実家は、全くセンスがないのね」
「そうなんです。お金がなくておしゃれにお金をかけなかったから、良いものへの目利きはあるんですけど、自分から良いものになる意識が弱いんですよねえ」
はぁー
私はため息をつく。
やっぱり、かんざしはダメか。
「あと、金細工ってのが下品。おしゃれは、あんたみたいにでししゃばるんじゃダメなのよ。あら?と思わせないと。マウント取る貴族ばっかりに、どう?って見せたらアンチは群がるの」
ツンとセラフィーヌにそのかんざしを押し返され、なるほど!と更に納得して私はカバンに戻す。
「なるほど。さすがセラフィーヌ様ですわ。今までとは違い、忖度ないご意見を伺える気がします」
私は、今までの元カノにないはっきりした物言いに、
(やっぱりミレーを理解するのは、本命しかいないわ!)
そう実感する。
「で?この冴えない店にわざわざ私を訪ねて何しに?……はぁーん」
セラフィーヌはニヤッと私に笑いかける。
「やっと、発動したんだ。そうだよねえ、仲が良くなれば良くなるほど気になるわよね。情事の後のシーツだよね」
私はそれを聞いて、感動に打ち震える。
さすが本命!
今までの、遊び相手の元カノだったら、回りくどい前半の会話が必要なのに、本題に入ったら、即、夜伽の相談が出来るなんて。
私は、思いっきり頷く。
「そうです。大発動です。もう聞きたいことばかりで!でもわかったこともあるんです」
「へぇ、何がわかったのかしら?」
あんたみたいな鈍感でも流石にわかったんだぁ
そうケラケラ笑うセラフィーヌに、流石にムッとする。
「笑わないでくださいよ。そりゃ、あの頃は夜伽のことはしっかり理解できてなかったですからね。セラフィーヌ様が恥ずかしくてたまらなかったことは、今なら理解できます」
「は?恥ずかしい?私が?」
セラフィーヌはポカンとしたあと、なにそれ!妻だからって愛されマウント発動してるんじゃないわよと睨みつける。
「妻だから……そう、妻だからですよね。私にシーツを洗わせたのは。だって、あんな明らかにやりました的なのみんなに知られるのは恥ずかしすぎますもの。私もそうです」
「なにがそうなのよ!」
そう聞くセラフィーヌに、私は真面目に打ち明ける。
「セラフィーヌ様は、私が見た限りミレーは単発だったし、お別れするころは、不発の日だらけだったみたいだから、私だけにシーツを交換して欲しいと打ち明ける程度で済んだと思うんです。
でも、私と結ばれてからのミレーはそんな生優しくないんです。毎晩ミレーは、今日から私は君の機関銃になる!と叫んでるんですから!」
「は?今日から……機関銃?」
セラフィーヌは、わたしは一体何を聞かされている?という顔をする。
「そうです。ひどい時には、私をお風呂に入れている間に、ミレーったら、マイヤーさんやカロリーヌさんにシーツを変えてもらうんです。出てきた時のあの綺麗になったシーツを見た時に何とも言えない後味の悪さを感じるのに、ミレーってば、さあ綺麗になったからスキンシップの仕切り直しだねって」
私はわなわな震えて、本命ならこの対処法がわかるはずだと訴える。
「セラフィーヌ様、どうやってミレーが一発で萎えるように仕込みましたの?」
「い、一発って……わ、私だって二発の日ぐらい……」
「いえ、おそらく私がシーツを変えていたからこそわかります。確かに暴発してしまったことはあるのかもしれませんが、着弾してないわ。でも、暴発じゃないの!今のミレーは、毎晩、ちゃんと照準を定めて私に撃ち込みにきてるんですもの!」
私は、どうしたらいいのかと頭を抱えた。
セラフィーヌは、一息ついて私を再度嘲るように笑って声をかける。
「何があなた言いたいわけ?ははーん、わかった。今愛されているのは私だとアピールしたいわけね?可哀想な人ね。わざわざ見えるところにキスマークまでつけてもらっちゃって」
「ち、ちがいますよ!わざわざなんてするもんですか。そうだ!セラフィーヌ様にだけ少しお見せしますね。アピールなんてもんじゃないんですから」
わたしは少し衣服を緩めてちらっと首下から胸元近くまで見せる。
「あ!あんた!!何それ!殴られたぐらい内出血じゃないの!」
セラフィーヌが驚愕のあまり、声を上げる。
「はい。毎日、毎日何個も何個もキスマークをつけるから、身体中キスマークだらけなんです。見えるところは嫌って言ってたから、わかってくれるかと思ったのに――」
ミレーは、数日留守にする前に突然……
「ごめんね、パトリシア!嫌よ嫌よって言葉を間に受けてしまったよ。ちゃんと見えるところにしっかり男避けを付けておくからね!」
「ミレー!それは恥ずかしすぎるのでいやああああああっ!」
そう言ったが、嫌だという駆け引きと間違えられて、首の周りにキスマークが残されてしまったというわけだ。
「ええっ、いや……そんな情熱的だったっけ?というか、何?私とミレーの関係とかシーツを思い出して何もないわけ?」
セラフィーヌは、もはや同情の目で私を見つめる。
私は、きょとんとして首を傾げた。
「何かって?」
「だ、だって、私は元愛人なのよ。その女と夫の関係をあなたはどう考えるのよ」
あんた、頭がおかしいんじゃないの?
そうセラフィーヌは動揺したように叫ぶ。
だが、ああ、そんなことですか……
私は微笑んで答えた。
「どうもこうも……ああ、一発でミレーを仕留める技が絶対どこかにあるのよね?と思うだけです。だって、セラフィーヌ様、私たちがミレーとお付き合いする前の、ほんの10年間の間に、ミレーの元カノは累計120人ですよ。そこに一人増えてもプラスワンに過ぎません」
私は何を今更と、笑いかけるが、セラフィーヌの顔は般若のように固まる。
「120人?どういうこと?」
「えっ?ミレーの恋人の数です。ああ、ミレーの名誉のために言っておきますけど、みんな全く被ってません。ミレーって、ゲスな割に誠実なので、私とセラフィーヌ様の時も絶対被ってないじゃないですか?同時進行はしてないですよ。ただ、それで120人って凄いですよね」
なんなら、18歳より前にもいるからもっと増えるだろうが、セラフィーヌとどのくらい付き合っていたのかしらないので、ざっくり累計120人だ。
そういえば……それだけ付き合ったのに、初めての男性がミレーというのは私だけだったようで、ミレーは、初めての対応にかなり動揺していた。
まあ……優しかったけど……
セラフィーヌは、過去に誰かと付き合ったことがあったのだろうか?初めてじゃなかったってことよね?
私は、あれっと首を傾げる。
「ふ、ふん!そのぐらい知っているわよ!でもね、確かに被ってはいないけどミレーったら可哀想な男なのよね。知ってた?あなたを蔑ろにしていた頃、ミレーったら、私は本気でもないのに必死に私に愛されていると勘違いして、愛を囁いていたって」
セラフィーヌは、突然、ミレーってば可哀想な男だと私に笑い始める。
そうだ!これだけは、ミレーのために怒っておかなければ!
わたしはキッパリと告げた。
「知ってます。ミレーの純粋な愛情を利用したんですもの。私だってセラフィーヌ様のそれだけは許してません!」
私は、ミレーが大切に取っていたセラフィーヌの刺繍を思い出し心が痛んだ。
ミレーは、きっと信じていた人に裏切られた上に、美しい思い出まで穢されて悲しかったに違いない。
だって、火に燃やしてしまうぐらいショックを受けたのだもの――
私の中で、愛する夫を守らなければモードが発動する。
「なにが純粋よ!120人付き合うって病気よ!それなのに、私がついた嘘にいつもころっと騙されちゃって、そのくせ世間体を気にして、君との関係は間違っていた、なんてアホみたいな正義感出しちゃってさ」
「セラフィーヌ様には、ミレーの優しさや不器用さや思いやりが伝わっていないのだわ。ミレーはね、絶倫だし、ゲスなところも多いし、元カノとの思い出の物は捨てられないし、毎月彼女がいた困ったさんだけど、ちゃんと一生懸命に一人一人の人のことを大切に思いやれる心がある人なのよ。私とセラフィーヌ様が一緒に生活していた時に、私に対してだけはそれが欠けてたって今でも懺悔するんだから!」
しかも、元カノたちがみんなミレーを悪く言わないのもすごいところだ。
「ふん、それで私には、別れた後、家と金をあてがったってわけね。はあ、もういいわ。あなたの惚気なんて聞きたくもない!帰ってよ!」
「どこが惚気てるんですか!」
「それが惚気じゃないなら嫌がらせよ!こっちは、幸せに、絶倫じゃない夫と過ごしてるわよ!なによ!そんなに絶倫が困るなら、やる気がなくなるぐらい、こっちが責め立てたらいいでしょっ!」
「やる気がなくなるぐらい……こっちが責める?」
私は、ガツンと頭から水をかぶるぐらいの衝撃をうける。
「さすが本命!そうか、攻撃は最大の防御!セラフィーヌ様、さすがですわ。私、早速そのアドバイスを胸に、ミレーを責め立ててみせます!」
私は、良いことを聞いたと颯爽と帰路に着く。
セラフィーヌの夫は終始オロオロとしていたが、その夫にも、実家のガラス細工を売り込み、わたしは家に戻って行ったのだった。
◇
「あれ?ミレー!もう帰ってきたんですか?」
「あれっ、じゃないよ!なんでセラフィーヌのところに行ってるの?マイヤーから聞いて、気が気じゃなかったよ」
ミレーは、私が帰ってきたと同時に飛び出してきて、私をぎゅっと抱きしめた。
ミレーにしては、珍しく服も乱れたままだし、髪も整ってないし……私があげたタイだけはきちんと締められているけど……
「セラフィーヌ様に、アドバイスをもらっていたんです。そういえば、父との話は早く片付いたんですね」
私がそう笑顔でミレーに声をかけると、ミレーの目は泳ぎ始める。
ん?
「ミレー……もしかして……もう浮気ですか?」
私は、隠し事ができないミレーが、明らかに動揺して私から目を逸らす様子に、何かあったとピンとくる。
だが、私に隠れてどこかに行こうなんて。
夫ミレーが、新たな浮気というゲススキルを身につけてしまった……
そう思った瞬間――
「ち、ちがうよ!君をこれ以上になく愛して、どうやってこの愛情を君に告げたらいいか困っているのに、そんなことはしない!」
ミレーは、ゲススキルを身につけなかったらしい。
それならいいと、わたしは何を隠しているのか聞いてみる。
「実は、君の幼馴染のセルビオが、昔、君の下着や服を盗んでいたみたいなんだ。それを、自分はそういうものを手に入れられる関係だったとうそぶいているから、流石に我慢できなくてね。殴り飛ばした後、伯爵と一緒に子爵の家督を弟についでもらうことにして、子爵家から追放してもらったんだ。本来なら重罪だからね」
ミレーは、幼馴染で情があるだろうから、そこまでと思うかもしれないけど……と言葉を濁した。
だが――
「な、なんですって!あのくそセルビオ!わたしの下着を!!ありえない、気持ち悪い!うわぁ!殴っただけですか?蹴り飛ばしてくれなかったんですか!」
わたしは、ぶるっと震えてあの勘違い男がわたしの下着を盗んでいたことに衝撃を受ける。
家の出入りが普通にできていたし、物を売りに行かなければならなかった時は、家のものを運び出してもらうことは可能だったから、盗もうと思えば盗めたのだ。
「ミレー……」
私は、半泣きになる。
「大丈夫、パトリシアのすべても、初めても全部私のものだし、私が知っているからね。気持ち悪かったね。ごめんね」
ミレーは、私を抱きしめて頭に軽く口付けしながら、涙を拭ってくれる。
ミレーは、やっぱり優しい人なのだ。
でも……あんなに彼女がいたら、いつ私も今月が終わったから離縁しようと言われるかわからない。
私は、勇気を出して、ミレーに打ち明けることにした。
「あのね……ミレー!私、多分あなたを満足させることができてないのよね?」
「へっ?何のこと?」
ミレーは驚いたように私に聞いてきた。
わたしは、わかっているのよとため息をつく。
「だって、ミレーは絶倫でしょ。でも、今までの元カノもセラフィーヌ様もそんなことなかったわ。多分一発でうまく萎えたんだと思うの。わたしってダメよね。何度も何度もミレーを復活させてしまうのだもの」
「ええっ!」
ミレーは、慌てている。
流石にバレたかと思っているに違いない。
「なんとか一発で仕留める方法を聞いて回ったのだけど、やっと有益な情報を得ることができたわ。だから嫌わないでくれると嬉しいの。だって、私はミレーが好きなのだもの……」
「ち、ちがうよ!私もパトリシアが好きで抑えられなくて……」
私はそれを聞いて、ポロリと涙がこぼれた。
「私、実家にいた時は月のものが止まっていて、やっとここにやってきて栄養状態がよくなって、ずっとあるようになったの。でも、この間からまたとまってるの。しかも、なんだかムカムカして食べられなくなってきて……」
私は、やっとミレーに告げることができると口にする。
「もし、妊娠だったら、今までみたいな機関銃は無理。でも、そうしたら、今までの交際みたいに、ミレーには毎月彼女ができるかもしれないし、今月が終わったから、君とは縁を切るねって言われちゃうかもって思ったの。だって、一発で仕留められない女なのよ」
私はボロボロと涙をこぼした。
「な、何を言ってるんだ!彼女なんて作るわけないだろう?君は忘れてないか?君に想いを寄せ始めても手は出さなかっただろう?大好きだから、そりゃ、少し手加減を忘れたけど……というか、なんでそんな大事なことを言わない?しかも馬車に長く乗ったり、馬の世話をしたり!だめだよ、すぐ医者を呼ぶ。」
「お医者様に、懐妊だって言われても……ちゃんと、いろんな方法をきいてミレーを責め立てるようにするから、我慢してくれる?」
「責め立てるって何!パトリシア、君は何か勘違いをしている。君以上大切な人は、前も今もいない。君だけを愛して、心配して、飽きられないから不安になってるのは私だよ。すぐ、医師を呼ぶ!テイラー!テイラー!」
ミレーは、私にこれでもかと口付けの嵐をしたかと思うと、急いで私を寝室に連れて行き、横たわらせる。
「ミレー……」
私は、やっと言えたことにホッとして、そのまま、目を瞑った。
◇
「ご懐妊ではございませんな」
医師のあっさりとした言葉に、ミレーと私は、へっ?とポカンとする。
「これは過労でしょう。あと胃腸が荒れていると思われます。疲れて食事をしなければ、ますます体のバランスは崩れます。しっかりねむって、消化の良いものを食べて、体力を回復させることです」
そう言われて――
思い当たることがありすぎる。
私はミレーと話をした。
「だって、ミレーは絶倫でしょう。でも、朝の妻の仕事はきちんとしたいじゃない?ペットの世話だって……だから、毎日逆絶倫ドリンクを飲んでいたの」
私はしょんぼりと、あのドリンクの存在を打ち明ける。
「あの、怪しげな飲み物か?」
「そう、あまりの不味さに、立ち上がらない体も瞬間立ち上がるの。それを利用して、なんとか動いていたんだけど、あまり眠ってなかったし……」
だから胃腸が荒れたのだ。
どうやらあのドリンクは、胃腸にキツすぎたらしい。
更に、毎夜ミレーの絶倫対応で寝不足で疲れていた。
お茶会の準備もあって、疲労感はMAX。
思い当たりすぎる。
「それは……私のせいだよな。もちろん、私の自制が効かなかったこともあるし、飽きられないように必死だったから。君はどう思っているのか知らないけど、君に追い縋っているのは私なんだからね。ただ、歳上なのに情けないな……妻が体調を崩すまで夜伽にこだわるなんて……」
しばらくは、ゆっくり休まないとダメだよと私の頭をミレーは撫でた。
「私と夜伽が出来ないからってどこかの人に目が奪われませんか?」
私は心配そうな顔でミレーの手を握る。
かつてセラフィーヌ様がいた時には、私がミレーのことを、何も思っていなかったから平気だったのだ。
好きになってしまったら――
私はしょんぼりとしてしまう。
「なんでそんなに不安に思わせてしまったのかな?私の過去のせい?」
ミレーは心配そうに私の横に横たわって、優しく髪に触れ続ける。
「比べてはダメなんです。でも、今までの人は遊びであろうと騙されようとミレーがちゃんと声をかけて選んだ人でしょう?だから、元カノさんもセラフィーヌ様も素敵な方だわ。でも、私は違うもの。一番お金が当時必要で、その条件にあっただけ……ミレーは私の顔も知らなかったでしょ。きっと、セラフィーヌ様と付き合ってなかったら、私なんて声もかけられてないわ」
元カノもセラフィーヌもみんなオシャレで綺麗で……
痩せぎすで手も相変わらずボロボロで、流行もわからない私は、明らかに今までのミレーのタイプと違う。
その上、夜伽もみんなと違っていたのだ。
私は、ミレーを満足させられないのだと、落ち込んでいたことを告げた。
セラフィーヌが素敵な人?
ミレーは目を白黒させて、困ったように私に微笑む。
「パトリシア……どうして、今までの私がダメだと思わないの?大概なクズだよ。パトリシアに会って、今までの自分が嫌で嫌でたまらないのに……君に愛情を伝える方法すらこうやって間違えて、体調を崩させちゃう男だよ」
パトリシアは悪い私に引っかかってしまって、もう離してもらえないんだよと呟きながら、ミレーは私を抱き寄せる。
「夜伽を私に任せることを決めるだけでいいなんて言ったからだよね。つらかったり困ったら、口にして大丈夫。言いたいことは、汚れた私の過去に聞かずに、私に聞いたらいい。だって、隠すことはもうないもの。全部カッコ悪い私を見てくれた上で、私に愛情を注いでくれているんだからね」
ありがとう。
そう呟いてミレーは、私にそっと唇を重ねる。
「じゃあ……言っていいなら、口付けはせめぎ合いのほうがいいです」
私は、そう言って、ちょっと赤くなりながら、ミレーを上目遣いに見る。
軽い口付けでは、物足りない体になったのだ。
「もちろん」
ミレーは、優しく、私の顎を上に向かせる。
そして、やがて、ミレーとわたしの間で、深い口付けが始まる。
そして、お互いの舌のせめぎ合いが始まったのだった。
《完》




