第5話 ギルド長のはかりごと
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魔人の厄介なところは、人間に擬態するところだ。
だから、警戒期間が過ぎたとしても、魔人が去ったとは限らない。
人々はしばらくの間、怯えながら生活をしなければならない。
そこに、魔人討伐の知らせが入った。その結果、町は大騒ぎとなった。
お姉様の功績は町中に広まり、お祭り騒ぎとなったのだ。
だけど、その裏でそれを快く思わない者たちもいた。
その日の深夜――。
ランプの明かりだけがついたギルドで、十人程度の男が集まっていた。
その中心には、筋骨隆々な禿頭の男がいた。彼こそが、このギルドのギルド長だ。
「魔人ヴァンがイリアによって倒された。これは大いに問題だ」
「何が問題なんだ?」
「魔人ヴァンは、わざわざ冒険者が集まるこのギルドにやって来た。つまり、ここにいる冒険者を全く危険視していないということだ。実際、誰も動けなかっただろう」
「それはそうだが」
「しかも、それをギルドに登録していない女が倒したというのだ。俺のギルドは面目丸つぶれだ」
そう言って、ギルド長は机をたたいた。
その勢いで、机の上に積まれていた素材が地面に落ちる。
数えていた受付嬢が、ギルド長を睨みつけた。
「邪魔するなら、手伝ってもらえません?」
「俺、鑑定とか、出来ないし」
「これ以上邪魔するなら、殺すぞ!」
「……はい。ごめんなさい」
受付嬢の剣幕に怯え、ギルド長たちは部屋の隅へと移動した。
そこでこそこそと悪だくみを再開する。
「何とかして、イリア・アイルーンの名誉を貶めなければならない。二日後には、彼女はこの町を出て行く。だから、明日中に何とかする必要がある。何か策はないか?」
「うるさい!」
「はい、すみません!」
ギルド長たちは更に声を小さくした。
「まず、武力での制圧は困難――というより、不可能かと。魔力を取り戻したアレは、魔人を何の苦も無く倒せる人物です。ギルドに所属する冒険者全員でかかったところで軽く蹴散らされます」
「何か、いい知恵はないのか……」
ギルド長たちは黙り込んだ。
そこに、フードを被った人物が現れる。
「イリアに危害を加えるのは無理だ。ならば、その妹を狙えばいい」
「妹? ただの少女だろう? 多少頭がおかしいが、ギルドが危害を加える理由にはならないだろう。というか、お前誰だ?」
「そんなことはどうでもいい。大切なのは、イヴを害するための大義名分を用意することだ」
「何かあるのか?」
「信じられないだろうが、イヴの身体には『従魔の証』があった」
従魔の証というのは、人間が使役する魔物につけられる『紋』のようなものだ。
魔物が暴走しないよう、使役者の魔力で縛る術式を使うと、自動的に魔物の身体に刻印される。
「……ありえない。人間を従魔にすることは出来ないはずだ。禁忌である上、技術的にも不可能だ」
「詳しいな」
「これでも、俺は博識なのだ」
「だったら、受付嬢の査定を手伝ってやったらどうだ? このままだと、お前、受付嬢に殺されかねないぞ」
「その心配はない。それよりも、従魔の証が事実だとしたら、面白いことになる。人間を従魔にすることは技術的には不可能だ。だから、俺たちはイリアの妹を『魔人』として扱うことが出来る」
「成程。それでイリアを脅そうという訳か。彼女は妹を溺愛しているからな」
「それはどちらでもいい。脅しに屈しなかったら、人間を従魔にしたことを公表してやればいい。これで、俺たちに逆らったことを後悔させてやる!」
その言葉を聞いた後、ローブの人物は無言でギルドを出て行った。
残されたギルド長たちは、詳細を詰め始めた。




