第2話 ギルドのお仕事
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翌日、私達は村にある『冒険者ギルド』へと行った。
冒険者ギルドというのは、全国的な組織であり、ここにあるのはその支部の一つだ。
私達は、ここで依頼を受け、宿泊費を稼ぐことにしたのだ。
ギルド自体は、とても古い建物だ。
というよりも、この町にある建物のほとんどは年季が入ったものばかりだ。
町全体にどんよりとした雰囲気が漂っており、あまり居心地はよくない。
ギルドの中には、食堂が併設されていた。
客の中には、武器を持った冒険者らしき人たちも多くいた。あまり柄のよろしくない方々だ。
カウンターには二十代前半くらいの受付嬢がいた。
今は、書類仕事をしているようで、紙に筆を走らせている。
他にも職員はいるようだが、それぞれ別の仕事をしているのだろう。
お姉様はまっすぐにカウンターに向かい、受付嬢に声をかけた。
「失礼、依頼を受けたいのですが」
「はい。冒険者としての登録はされていますか?」
「していませんわ」
「では、されていかれますか? 登録をするには手数料として銀貨10枚が必要となります。登録をしなくても依頼を受けることは出来ますが、受けることが出来るのは『常駐依頼』のみとなります。こちらに関しては、一定の金額で全量買い取らせていただくものです」
常駐依頼というのは、常に張り出されている依頼だ。
その大半は、薬草などの素材採取や魔物の討伐――つまり、誰がやっても変わらないうえ、年間を通して需要があるものということになる。
「登録は結構ですわ。常駐依頼の中で、単価が一番高いのは――月見草の採取ですわね。これは、どういうものですの?」
「そのまま、月見草の採取です。一定の金額で買い取りをさせていただきます。ただ、それにも条件があります。ただ採取するだけではなく、他の植物と混ざらないようにしていただく必要があります。また、一定以下の品質のものは買い取ることが出来ませんので、ご注意ください」
「分かりました。では、こちらを受けますわ」
「畏まりました。常駐依頼については、受注の手続きは必要ありません。一定量採取することが出来たら、お声がけください」
「ええ、分かりましたわ」
お姉様がそう答えた瞬間、受付嬢の表情が怪しく歪んだ。
まぁ、お姉様に声をかけられたのだから、まともな状態を保てなくても仕方がない。
その光栄に笑みがこぼれてしまったのだろう。
やっぱり、お姉様は最高だぜ!
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突然だが、私には【聞き耳】というスキルがある。
それを使うと、遠くの声や小さな声も聞こえるようになる。
主に、お姉様の吐息を鑑賞するために使うものだ。
だけど、今回はそれとは違う用途で使うことにした。
依頼を受けた後、私達はギルドの端で朝食をとっていた。
その時、受付嬢と他の職員たちがこそこそと話をしていることに気づいた。
だから、彼女たちの話を聞いてみようと思ったのだ。
きっと、お姉様を賛美する言葉が飛び交っているに違いない。
そう思ったのだけど、実際は違った。彼女たちの会話は、こういうものだった。
「月見草って、キロ単位での買取でしょ? 一キロ未満なら、買取拒否だったよね?」
「ええ、そうよ」
「しかも、採取してからすぐに悪くなっちゃう。三日もすれば、買い取れるような状況じゃなくなっちゃう。その上、大量に採取することはほぼ不可能」
「あの子たち、徒労よね」
「登録もしないのだから、いい気味よ」
「酷いわね~」
「そんなことはないわ。親切な私は、ポンジさんを紹介してさしあげるから」
「それって、素材を格安で買い叩く商人よね?」
「キックバック、いただいております」
「悪い女ね。今度おごりなさいよ」
「それはあの新人次第ね」
どうやら、そういうことらしい。
依頼書を改めて見てみると、小さな文字で『買取りは1㎏からキロ単位』と書いてある。
口頭では敢えてそこを説明せず、納品時に突然買取拒否を言い渡す腹積もりなのだろう。
ここのギルドはハズレのようだ。
受付嬢たちの会話は、まだ続いていた。
「それに、あれって、イリア・アイルーンでしょ?」
「誰?」
「王国から追放された聖女よ。『王国対魔旅団』に入っていたとか」
「エリートじゃない! 貴女、詳しいわね」
「失敗したエリートの情報を集めるのが趣味なの。落ちぶれた姿を想像すると、心が弾むわ」
「趣味が悪いわね」
受付嬢たちは、こそこそと笑いながら会話を続けていた。
それはもう、聞くに堪えないものだった。
だから、私は『実力行使』に出るべく、立ち上がった。
だけど、お姉様が私の腕を掴んだ。
「お姉様……」
「どうしたんですの? 何かやらかしそうな雰囲気ですが」
「許しがたい事態が起きているので、講堂に出てしまおうかと」
「止めておきなさい。ここで問題を起こすわけには行きませんわ」
「しかし、怒りを抑えることが出来ません。この怒りを収めるためには、今すぐ文句を言いに行くか、お姉様をぺろぺろするか――そのどちらかしかありません」
「あまり調子に乗ると『聖なるグー』を喰らわせますわよ」
「調子に乗りました。ごめんなさい!」
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食事を終えた私達は町の外に出た。
そこで、私はギルドでの出来事を説明した。
月見草を一定量確保することが困難であること、受付嬢は敢えてそれを説明していないこと、お姉様の悪口を言っていたこと。
だけど、お姉様は気にしていないようだった。
「つまり、私のために怒ってくれたわけですわね」
「……はい」
「ありがとう」
そう言って、お姉様は私の頭を撫でた。
そのあまりの心地よさに、全身が蕩けそうになった。危ないところだ。
「ところで、そのスキルですが、おかしなことに使っていませんわよね?」
「ええ、勿論です」
お姉様の吐息を聞くのは、おかしな用法ではない。
このスキルがこの世に存在するのは、そのためなのだから。
「ところで、お姉様。どうされるのですか? あの受付の方々が言っていたことは、あながち間違ってはいません」
月見草というのは、夜の間に花を咲かせる植物だ。
花が咲いていないときは小さく目立ちにくいため、昼の採取も出来ないことはないが、量を集めるのには向かない。
だけど、お姉様はそこも考えていたようだ。
「これを使いますわ」
お姉様は布を取り出した。
「それ、何ですか?」
「以前魔人を討伐した際に、宝物庫から勝手に持ってきた『アイテムボックス』ですわ。普通のものよりも少し性能がいいものです」
アイテムボックスと言えば、素材などを亜空間に保存できる魔導具だ。
現代の技術では製造不可。
貴重な古代魔道具の一つとされていたが、まさかそれをお姉様が持っているとは思わなかった。
「それでは、始めますわ」
お姉様は布に魔力を込めながら歩き出した。
すると、周囲から植物が飛んできて、布の中に入っていった。
「このアイテムボックスは少し特殊なものでして、収納するものを登録しておけば、同じものが自動的に入ってきますわ。効果範囲は大体3mくらいですわね。今回は、月見草を登録しておきましたので、歩いているだけで自動的に採取できるというわけです」
「でも、それって魔力を沢山使いますよね?」
「ええ。ですが、私なら平気ですわ」
そう言いながら、お姉様は歩き出した。
すると、月見草がどんどんアイテムボックスの中に入っていく。
これなら、いちいち探す必要がない。大量の採取が可能となるだろう。
性能の良いアイテムボックス。
それに、お姉様の持つ膨大な魔力。
この二つが組み合わさることによって、最強の素材乱獲マシンとなったのだ。
「それでは、収集を続けましょう」
「はい、お姉様」
やっぱり、お姉様は最高だぜ!




