第7話話し合い(洗脳)
ギルド長は、死ななかった。
勿論、必殺技とは銘打ったけれど、本当に殺すつもりはなかった。
『素羅柔拳』は行動不能にするための技であって、生命を奪うための技ではない。
そういう優しい技なのだ。
まぁ、ギルド長は十分ほど痛みでのたうち回っていたけれど。
絵面が汚いので、その描写は省略してしまおう。
見るにも聞くにも書くにも耐えない。
ちなみに、現在のギルド長は縄で拘束され、椅子に座らされている。
これから取り調べが行われるのだ。
「さて、ギルド長。私達は話し合う必要があります」
「それ、もう少し早いタイミングに出来なかったか? 暴れる前に」
「先に手を出してきたのはそちらの方です」
「まぁ、それはそうだが。全く、こんなことで失脚することになるとは。これまでずっと上手くやって来たのに」
「貴方は私達を怒らせた。それが敗因です」
「Aランクパーティーがいれば、こんなことには……」
ギルド長は項垂れていた。
「いえ、結果は変わらなかったと思いますよ。彼らはあらかじめ排除しておきましたから」
「……は?」
「貴方のスキルの影響が特に強かったんでしょうね。彼らはお姉様を侮辱する言葉を吐いていました。ですから、この町から出て行っていただきました」
「そんなこと、どうやって?」
「深夜に部屋に侵入し、丁寧にお願いをしました」
「脅迫か!?」
「そうとも言います」
ギルド長が椅子から転げ落ちた。
ショックを受けたというより、何もかもが嫌になって身体に力が入らない感じだ。
時折「ほひぃー」という声が漏れ出てくる。
「ああ、それともう一つ。昨夜貴方たちのところに現れたフードの人物。アレは私です」
「ほひ?」
「このギルドが何かおかしいということは分かっていたのですが、具体的にどうおかしいかがよく分からなかったのです。ですから、私を襲うための大義名分を与え、貴方たちに動いてもらうことにしました。結果、貴方はそのスキルを用いてギルドのメンバーたちを動かした」
「全ては、お前たちの掌の上だったという訳か」
「お姉様の掌の上です」
「それで、俺をどうするつもりだ?」
「それはお姉様次第です」
私達はお姉様を見る。
「そうですわね。とりあえず、ギルドの本部に報告だけしておきますわ。後の処遇については、ギルドにお任せします」
「……分かりました」
こうして、一件落着となった。
だが、まだイベントは残っていた。
それについては、私が引き起こすことになる。
翌日、私達はギルドに行った。
魔法学院に向かう馬車に乗るための手続きはここで行うらしい。
ギルドは以前のような喧騒を取り戻していた。
常駐依頼はまだ復活していないようだけれど、多くの冒険者たちが集まっている。
ただ、これまでとは決定的に違うところがあった。
「おはようございます! イリア様は今日もお美しい!」
満面の笑みを浮かべながら、ギルド長が現れた。
その様子に、お姉様が動きを止める。
聡明なお姉様でも、この状況をいきなり受け入れることは難しいらしい。
「イリア様は、今日も最高ですな!」
「ええ、お姉様はいつでも最高です!」
ギルド長の言葉に、私は賛同する。
ついでに、ギルドにいる冒険者たちに向かって元気よく挨拶の言葉をかけた。
「皆さん、おはようございます」
「おはようございます! イリア様は最高だぜ!」
「おはよう! イリア様は最高ね!」
「アリス教から改宗しました!」
冒険者たちが、次々とお姉様を褒めたたえる。
これぞ世界のあるべき姿だ。
「おかしな宗教が始まっていますわ!? イヴ、貴女の仕業ですわね!? 何をしたんですの!?」
「昨日の事件の後、ギルド長とお話をさせていただきました。その結果、ギルド長にはお姉様の素晴らしさを正しく理解していただけたようなのです」
「それで、何故こんなことに!?」
「実はギルド長のスキル【感情操作】についてですが、常時発動型のもののようなのです。そして、スクなように操るのではなく、ギルド長の感情に同期させるというものでした。つまり、ギルド長がお姉様に心酔するようになった結果、このギルドにいる方々も同じようにお姉様に心酔するようになったのです」
「最悪ですわ!?」
ギルド内は大騒ぎだった。
お姉様が少し何かするだけで、全員が大騒ぎするのだ。
「これ、解除できませんの?」
「ギルド長を殺害すれば、解除されると思いますが」
「それなら――まぁ、いいですわ。どちらにせよ、私達はもうすぐこの町を出て行くのですから」
「「「えっ?」」」
「元々、次の馬車が出るまでの短期滞在の予定でしたから」
「そういえば、そうだった」「神は死んだ」「何を希望に生きていけばいいんだ!」「いっそのこと、俺たちも行くか!」「学院って、どうすれば行けるんだ?」
お姉様を失う悲しみに混乱する冒険者たち。
その気持ちはとてもよくわかる。そんな彼らを見捨てることは出来ない。
「皆さん、聞いてください」
私は冒険者たちに向かって呼びかける。
「この世界にイリア・アイルーンが存在するという幸福を知ることが出来たのです」
その事実に、多くの冒険者たちが涙した。
「「「イリア! イリア! イリア! イリア! イリア! イリア! イリア! イリア! イリア! イリア! イリア」」」
この熱狂は、馬車の準備が出来るまで続いた。
慎み深いお姉様は、顔を赤くして部屋の隅で小さくなっていた。
やっぱり、お姉様は最高だぜ!




