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第6話 ギルド長襲撃(即撃退)

     1


 魔族を撃退した日の翌日、私達は例のごとく食堂に行った。

 今日は食事をとった後、改めてこの町を散策する予定なのだ。

 つまりは、お姉様とのデートである。


 だけど、その前に済ませなければならない用事が出来てしまった。

 食堂に行くと、私達は冒険者たちに取り囲まれた。

 その中から、筋肉質な禿頭の男性が一歩前に出た。


「イリア・アイルーン。お前に確認したいことがある」

「……どちら様ですの?」

「そう言えば、会ったことはなかったな。俺はこのギルドのギルド長――マイケルだ」

「それはどうも、イリア・アイルーンです。それで、確認したいことというのはなんでしょう?」

「お前の妹についてだ。お前、妹を従魔にしたな」

「……ええ、しましたわ」

「え?」

「え? 何か?」

「認めるのか?」

「まぁ、隠すほどのことではありませんし」

「いや、それはおかしいだろ。実の妹を従魔にするなんて、あっちゃいけない」

「それに関しては、全面的に同意しますわ」

「では、イヴはこちらで捕縛する。そして、中央教会に異端審問にかけてもらおう」


 ギルド長が右手を上げると、三人の冒険者たちが近寄ってきた。

 そして、それぞれ武器を手に持ち、一斉にとびかかってきた。


 私はそれを軽くかわし、それぞれの身体に拳をお見舞いして差し上げた。

 この程度なら余裕だ。本気を出せば、五分でここにいる全員を倒すことだって出来る。

 勿論、お姉様は除くけれど。


 だけど――その時、私に天啓が訪れた。

 私はお姉様の腕を掴み上目遣いで視線を合わせる。


「お姉様、怖いです! 私を抱きしめて癒してください! 強く、強く抱きしめてください!」

「さすがに無理がありますわ」

「ですよねー」


 ちょっと計画が雑過ぎたようだ。


「それよりも、気になることがありますわ」

「私の愛の大きさですか?」

「ちょっと黙ってくださいまし!」


 お姉様はギルド長に視線を向けた。


「ギルド長、貴方に伺いたいことがありますわ」

「何だ?」

「中身がどうであれ、イヴの外見はか弱い少女そのもの。返り討ちにはしてしまいましたが、ここの冒険者たちは、イヴに躊躇することなく攻撃をしていましたわ」

「職務熱心な連中でね」

「ギルド長、貴方がなにかしているのですね?」


 そう言って、お姉様はギルド長に鋭い視線を向けた。

 あの視線、私にも向けてほしい。


「いや、攻撃の躊躇いのなさなら、昨日の君の方が上だろう。威力も」

「……まぁ、それはそれで」


 論破されてしまった。

 愛ゆえのスキンシップがこんなところで裏目に出るとは。

 だけど、お姉様の追及はまだ終わらない。


「そもそも、昨日の魔族の襲撃だっておかしかったのです。昨日現れた魔族――名前の憶えやすさに定評のあるヴァン。彼は突然正体を表しました。魔人というのは、大変危険な存在です。それが現れたのですから、ギルド内も大騒ぎになって然るべきです。それなのに、誰も騒いでいませんでした。だから、私がついうっかり攻撃をしてしまったのです」

「それなりに騒いでいたぞ。君は、妹にばかり気を取られていて気づいていなかったのではないか? 妹に夢中になる君の気持は尊重するが、少しは周りに気を使った方がいい」

「……う」


 再度、お姉様は言葉に窮した。

 もっとも、今のギルド長の発言は嘘だ。

 実際のところ、ギルドにいた人たちは騒いでいなかった。

 でも、私に夢中だったという指摘が大変気に入ったので、そこについては黙っていることにした。


「お姉様。交代しましょう」

「イヴ……」

「お姉様は人の話を聞き過ぎてしまいます。その慈悲深さは毎日祈りを捧げたくなるほどですが、そこに付け込もうというクズもこの世に入るのです。こういう輩の話に耳を傾ける必要はありません」


 私は一歩前に出た。


「受付嬢さん。このギルドで何が起きているか、教えていただけます?」

「私ですか?」


 まるで幽鬼のような表情をしている受付嬢が返事をした。

 もう休ませてあげたいところだけれど、もうひと働きしてもらう。


「はい。ちなみに、断ったらこの町に居座り続けて、お姉様が毎日全力で『納品』します」

「ギルド長がスキル【感情操作】を使って冒険者たちを操っています。魔人ヴァンとも裏で手を組んでいました」


 これで、お姉様の推理が裏付けされた。

 ギルド長は裏で魔物と癒着していたらしい。

 彼は、己の失策を自覚したのか、目をつぶり頭に手を当てていた。


「まさか、受付嬢から真実が漏れるとはな」

「昨日、魔人にお姉様を襲わせたのは貴方の指示によるものですね」

「指示ではない。協力依頼だ」

「何故そんなことを?」

「本来は予定外だった。だが、君たちが俺のギルドを潰そうとしていたため、排除しようとしたのだ」

「潰そうとした?」


 そんなことをした覚えはなかった。

 だけど、ギルド長は鼻息を荒くしながら話を続けた。


「月見草だ! あれ程大量に納品されてしまったら、在庫をさばけなくなる。月見草は加工しなければその質が落ちていく。お前たちが納品した月見草の大半は不良在庫となるのだ。その分の赤字が、我がギルドを困窮させることになったのだ!」


 私達が原因だったらしい。


「魔人との関係は?」

「ヴァンにはA級冒険者でも勝てない。だから、この町を教わんないように頼んだのだ。そして、見返りとして金を支払っていた。君たちのせいでその金が払えなくなると伝えたところ、彼は君たちを殺害しようとしたのだ」

「それで、私達を取り囲んでいるのは何故ですか? 既にヴァンは駆除されました。それに、先程襲い掛かってきた三人も瞬殺でしたよ」

「下っ端を三人倒しただけで、勝った気になるなよ」


 ギルド長がそう言うと、ギルドに所属している冒険者たちが、一斉に立ち上がった。

 彼らは武器を構えている。


「彼らは俺のスキル【感情支配】によって、俺の言葉に全面的に賛同するよう『誘導』されている」

「成程。それで、このギルドの人間を支配していたのですね。私とお姉様には通用しませんでしたが」

「時間をかければ、高レベルパーティーだって支配することが出来る。俺が攻撃しろと命令すれば、このギルドに所属する全てのパーティーがお前たちを狙うことになる。ここは小さな町だが、それなりに強力なパーティーが所属している」

「それは厄介ですね」


 お姉様の神聖魔法は、魔族に対して強い効果を発揮する。

 操られているのではなく、誘導されているところが厄介だ。

 これでは解除したとしても、すぐに行動を止めるとは限らない。


「これで俺の勝利は確実! だが、油断はしない! 高ランクパーティーによって、確実に仕留めさせてもらおう! 言っておくが、Aランクは他の奴らとは格が違う! Aランクパーティー『暗黒龍炎舞団』! こいつらを殺せ!」


 ギルド長はそう言った。

 だが、誰も動かなかった。


「……『暗黒龍炎舞団』!」

「彼らなら、ここにいません」


 受付嬢がぶっきらぼうに答えた。


「何だと!? あいつら、いつもここでだらだらしているのに! だが、いないものは仕方がない。他にもAランクパーティーはいる。というわけで、気を取り直して――Aランクパーティー『にゃんこ大好き』!」

「……いません」

「何で!?」


 ギルド長が動揺し始めた。


「Aランクパーティー『ぷにぷに』『死ね死ね団』『スーパーぽんこつブラザーズ』『無職の誇り~絶対に働きたくない~』」

「いませんね」

「だよなあああ! 流れ的にそうなるよなあああ!」

「ちなみに、昨日から行方不明になっています」

「何でだよ!? 俺、嫌われるようなことをしたか!? 感情支配で縛り付けることは出来たはずなのに!」

「このギルドに所属しているパーティーの名前を馬鹿にしていたのがバレたとか」

「それは――いくらなんでも、おかしぎるだろう! ふざけているとしか思えない!」

「キラキラネームですね」

「黒歴史ネームだろ! 十年後には、恥ずかしくてのたうちまわることになるぞ! いや、そんなことはどうでもいい! いるだけの人間でやってやる!」

「大丈夫ですか? 先ほど、Aランクとそれ以外では格が違うと仰っていましたが」

「お前、どっちの味方なの!?」

「両方とも敵ですが」

「もしかして【感情支配】が効いていないのか?」


 おそるおそる尋ねるギルド長に対し、受付嬢は冷笑を浮かべる。


「深夜までの残業が何日も続くと、感情は死ぬのですよ。貴方の能力も、死んだものまでは操れないでしょう」

「何だそれは!?」


 何やらよく分からないけれど、受付嬢さんはギルド長の呪縛から逃れたらしい。

 もっと恐ろしいものに憑りつかれている雰囲気はあるけど、それは気にしないことにした。


「まぁ、いい。他の奴らは、全員俺の支配下にある。全軍突撃!」


 一斉に襲い掛かる冒険者たち。

 絶体絶命のピンチ――ではなかった。

 この程度、お姉様の手を煩わせるまでもない。

 私は冒険者たちが攻撃をする前に、特殊な脚運び【瞬歩】とスキル【瞬動】を組み合わせ、それぞれに強烈な一撃をお見舞いした。

 彼らを全滅させるのに、十秒もかからなかった。


「な、何故……。お前は、ただの娘だろう!」

「ええ、そうですね。ただ、諸事情により、無数の武術をマスターしていますので」

「何だそれは」

「貴方に教える気はありません。それよりも、制裁を受ける準備は出来ていますか?」


 私は狼狽するギルド長に歩み寄る。

 すると、彼は媚びるような笑顔を作りながら懇願した。


「助けてくれ! そうだ、好きなものを言え! 何でも用意してやる!」

「お姉様の愛!」

「それは無理だ!」

「は? 無理とはどういうことですか! 私には希望がないと!?」

「そういう意味では――」

「許しがたい暴言ですね。貴方には、最近考案した私の『必殺技』をお見舞いして差し上げましょう」

「ちょっ、待て!」

「『素羅柔拳』!」

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