痛みは炎
白熱する大広間の床。
三人を取り囲んだ地獄の様な業火はバチバチと激しく炸裂音を立てて燃え盛っている。
思いもよらず倒れ込んだ結生はその赤熱する床へと、利き手をつけて崩れた。
「ーーーーっ!」
言葉にならない悲鳴が上がった。
肉がひしゃげる。
皮がめくれ上がる。
彼女は自身の手のひらが…
表面から焼却されて、皮膚が焼け焦げて、そして剥がれるのを感じた。
弾かれたように立ち上がり自分の、激しく損傷したその一部を見た。
心臓の鼓動の、一拍一拍ごとに津波の様な痛みが押し寄せる。
決して逃げられない無限の牢獄に囚われたかの如くに、彼女は激痛に身悶えした。
そして加速する拍動と同期して体液が、血液が、丸出しになった肉体そのものからおぞましい痛みを伴って絞り出され、床に滴り落ちるのを、生々しい焼け焦げた臭いと共に感じた。
「がああああっ!」
結生は唸りそして、見上げる。
この惨状を創り出した張本人の顔を。
ファラフナーズは椅子の上で…
悲しそうな顔をしていた。
初めて見る彼女の、泣きそうな顔。
結生は驚愕する。
気も狂わんばかりの激痛がほんの一瞬だけ遠のいた。
彼女の顔は、火を手繰る術者のその面影は、限りなく悲痛な哀しみに満ちていた。
そして結生はその顔を、ひざまずいた体勢から見上げて、睨みつけた。
「……。」
黙ったままファラフナーズは彼女を見つめ返す。
結生は思った。
“私は死にたくない”
“生きたい”
“死んでは駄目だ”
“許してはならない”
“生きなければならない”
彼女の中で闘争心が燃え広がり、そして立ち上がった。
浅野結生はすっくと立ち、かつての親友の姿を一瞥する。
極限まで熱く乾いたその空間で、カラカラになった喉から声を、絞り出すように発した。
「断て!」
生き延びようとする本能から発した言葉。
それはオーロラの様に。
青色に輝く力線が現れ、業火に包まれるファラフナーズの周りに広がり、そして締め上げる。
「!」
青のエネルギーの糸が、彼女の細い腕に、胴に、そして首に巻き付きそれら脆弱な全てを力強く締め上げた。
「……!」
締め上げられたままファラフナーズは、親友の顔を一目見てそして…
「そこまでだ!」
“灰色の枢機卿”の冷たい言葉が響いた。




