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上向きに差し伸ばされたファラフナーズの右手の人差し指。

その先からまるで液体の様に黄金色の焔が流れ出す。

それは焼け付くような熱波を放ちながら床に溢れ落ち、みるみる間に絨毯が敷かれた広間に広がっていく。

紅蓮の焔が辺り一帯に満ちて、三人が座るテーブルの周りを取り囲んだ。


「……!」


結生は眼前で展開する、理解を超えた現象に驚愕して言葉を失う。

噛みかけの肉を無理やりに飲み下し、弾かれたように椅子から立ち上がる。

他の二人…

ファラフナーズと“灰色の枢機卿”は落ち着いた調子で座り、佇んで狼狽する結生を見ていた。


「分かるかしら?」


ファラフナーズは微笑んで言う。

今や彼女は手を下ろし、結生に向き合ったまま静かに座るのみだ。

真紅の色をした火炎が、肩の周りを後光が差した様に廻っている。


「何が…」


結生はようやく言葉を発した。

発したそのすぐ後に稲妻の様な痛みが背中に走る。


「ーっ!!」


火が漆黒の色をした制服の背中に燃え移っていた。

自慢でもある関節の柔軟さを生かして、彼女は自分の背中をはたき火を打ち消す。


「距離が肝心なのよ。」


尚もファラフナーズは静かな、それでいて絶対的な君主の様な超然とした態度で語る。


「私は火の女神。火はね、嫉妬深いの。燃えている間中ずっと、見ていなければならない。」


結生は燃える業火に囲まれた監獄の様な空間で、黙って親友の顔を見つめ聞いている。


「見ていなければ火は嫉妬に狂うの。知らない間に燃え広がって手が付けられなくなってしまう。でもね。」


小首を傾げて愛らしい表情を浮かべて彼女は続ける。


「近づき過ぎるのはもっと危険。火は嫉妬深くて、そして誇り高いの。部をわきまえず、近づく不届き者はね、真っ先に“犠牲”になるのよ。」


「女神が好きな、肉の神饌になるの。」


ファラフナーズ・タパヤンティーは利き手を高々と掲げて言う。


「貴方はどこまで私に“近づける”かしら?」


業火の衝撃が結生を襲い、彼女は倒れ込む。

倒れた拍子に右手をついた。

燃え盛る絨毯のその上に。

おぞましい絶叫が地獄の様な室内に響き渡った。

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