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能力

「影…?」


そう呟いて結生は困惑気味に目を細める。


「同志よ。」


とファラフナーズが落ち着いた様子で灰色の男に話しかける。


「ジンエイのことに関しては、まだ彼女に説明しておりませんので…」


「ああ、そうなのか。」


“灰色の枢機卿”は納得したように、ファラフナーズの碧い瞳と、結生の黒い瞳を交互に見る。


「では、ひとまず食事にするとしよう。君、名前は?」


「結生と言います。ユキ・アサノです。」


豪勢な食卓を囲んでの饗宴が始まる。

結生は野生の本能に突き動かされるが如くに、贅沢なオードブルをかっ喰らった。

貧困家庭出身故に、ご馳走を前にすると食欲を制御出来ないのだ。

あればあるだけ食べる。

…人よりやや優れた運動神経があって助かったと思う。

運動好きでもなければこの、自分でも惚れ惚れするような細身の体型を維持できないだろう事は明白だった。

名称の分からない肉のパテらしき塊を全力で噛み締め、給仕された葡萄ジュースで流し込む。

普段は学食の貧相な(カーシャ)で生き長らえる彼女にとって、最高の一時だった。


そんな彼女を灰色の男は静かに見守り、自らも食べ物を取る。

彼の前に用意されたのは皿一枚に盛りつけられたマッシュポテト。

そして一口大にカットされた数枚の薄切りパン。

男はスプーンでポテトをすくいパンに塗りつけて、さも高級食品かの如く恭しく口に運ぶ。


その眼前でファラフナーズは…

野生の狼を思わせる激しさで肉を食った。

ローストビーフ、仔羊の串焼肉シャシリク、金縁の器で提供される、牛肉がゴロゴロ入ったボルシチ。

およそ肉らしき料理には全て食指を伸ばした。

ファラフナーズの肉に対する執着、願望は異常とも呼べるモノだった。

彼女は授業中にさえ、漆黒の制服の各所に忍ばせた干し肉を、隠れて取り出しかじる癖があった。

半ば呆れる様にして、結生は問いかける。


「タパ。そう言えばあんた、インド人の癖に菜食主義者ベジタリアンじゃないのね…?」


カチャ、と銀のフォークを下ろして彼女は答える。


「ん?私そもそもヒンドゥー教徒じゃないわ。それに全ての信仰はこの国に来るときに捨てた。でも、」


「でも?」


結生の問いかけに続けてファラフナーズは応えた。


「信仰の輝き、そして燃え盛る火の熱さは覚えている。」


そしてファラフナーズが掲げた指先が燃え、熱く火を放った。

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