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武力行使

その日、薄暗い寒空にピンク色の曙が差し込む朝。

閉鎖都市“39番”を取り囲むタイガの森に、狼煙が上がった。

国防陸軍が主導する戦車隊の一団が押し寄せて、“39番”を取り囲む塀や建物へ砲撃を開始したのだ。

街角という街角を凄まじい轟音を伴う破壊音が貫いた。

人々は成すすべなく何事が、自分達が静穏を守って暮らすこの閉鎖都市を脅かしているのかも分からぬまま、逃げ惑った。

市民達は見た。

この街で一番高い建物。

スターリン様式で建てられた、灰色の空を貫いて高くそびえ立つ、“学園”。

そこの窓からライフル銃やロケット・ランチャーの射手が伸び、戦車隊に向かって紫煙を吹きながら発射されるのを。

戦争だ。

子供や若者は目を丸くした。

老人は第二次世界大戦時の記憶が蘇って、パニックになり狼狽えた。

その混乱の喧騒は、数人の男女が寄り集まる、病室の一角にも届いていた。

壁に寄りかかる一人の少女、ファラフナーズは包帯が巻かれた腕をさすって言う。


「…まずいわね。この状況。」


彼女の傍らに立つ、灰色のコートを着た長身痩躯の男は頷く。


「…ああ、多分にまずい…。オーデンセはここの地方議会指導部の大部分を取り込んでいた様だ。完全に連絡網が断ち切られている。党上層部は一連の出来事を我々“機関”の反乱と見なしているらしい。この勢いでは、いずれこの病院にも突入隊が突っ込んでくるだろう。」


「……それでもスリプナーさんの“犠牲”、無駄には出来ないわ。」


そう言って窓の外の盛り上がった土に差された、棒切に目を移した。


…昨日夜遅くまで結生達は、穴を掘った。

最後の力を振り絞って全員を安全地帯まで転移させたスリプナーの、遺体を葬る為に。

埋葬が終わった時、結生はまるで操り人形の糸が切れた様に倒れ込んだ。

今は全身を包帯で巻かれ、消毒薬のアルコール臭に包まれたまま、ベッドの上で眠っている。

“灰色の枢機卿”はその眼鏡を掛けた顔を腕を組み、椅子に座る一人の男に向けて言う。


「君は飲食店を経営しているのだったな。店は大丈夫なのかね?」


「大丈夫も何も…」


ホセ・ミゲル・デ・ミニョーラは深々とため息をついた。


「ぶっ壊されましたよぉ、だ…。おまけに一名の妹もな…」


そう言ってがっくり肩を落とす。


「いや、済まなかった。配慮が足りなかったよ…」


柄にもなく申し訳なさそうに狼狽する“枢機卿”。

ファラフナーズは軽く咳払いをして、病室のベッドに近寄る。


「マリーア。」


ベッドの近くに佇む一人の少女に呼びかける。


「ユキちゃんを治してくれるかしら?」

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