Aは回答(アンサー)のA
結生は包帯が巻かれた手を握り締め、進んだ。
ファラフナーズと“灰色の枢機卿”は、まるで独裁者に付き従う側近の如くに後ろに続く。
先頭を歩みつつ、結生は何事かを呟いている。
「Qは疑問のQ…Aは回答のA…」
ファラフナーズは真剣な眼差しで、彼女の背中を見守る。
…やがて三人はたどり着いた。
暗い色調の、オーデンセ教授の自室のドア。
結生は目の前の壁に耳を近づけ、聞き耳を立てる。
部屋の中から二人分の、緊迫した話し声が聞こえてくる…
「…彼ら…を、互いに憎しみ合わせ……の種を蒔き、そして…」
「の枢機卿が…ました。これ以上………事は困難です…………。」
三人は向き合い、互いの表情を確認し合った。
結生は言った。
「覚悟は良いわね?」
古めかしい軋みを上げて重厚な木の戸口が開かれた。
入って来た三人を見て、スリプナーは目を丸くした。
結生はそんな彼女を脇目に、裁判官の如く木製のテーブルの向こうに座る、フェルディナント・フォン・オーデンセを睨みつけた。
彼は口を開き、言った。
「どうした、物々しいな。まさかこれは反乱かね?」
「裁きを与えに来た。」
結生の喉の奥から漏れる、“神”の重々しく、冷たい声。
「裁き、ね。成る程。よろしい。ならばそれは非常にもったいを付けた、回りくどい反乱とも言えよう。支配者からしたらどちらも同じだ。変わりはしない。」
「Aは回答のA。そうですよね、オーデンセ教授?」
結生は右手を掲げる。
きつく巻き上げられた包帯の手のひらに、ルーン文字がインクで書かれている。
Fを斜めに傾けた様な形の、“A”ルーン。
証拠を提出する弁護士の様にして、結生は凛と張り詰めた声を上げた。
「私を焚き付けましたね?」
オーデンセは頷く。
「そうだ。」
「何故…?」
「君達が互いに憎しみ合い、対立すれば良いと。初めからそういう計画だ。遠隔操作の爆薬で人を殺し、君の親友、石破望に罪を被せる。“狂信化”しやすいケツァルコアトルの“神影”たるルシーア・ミゲル・デ・ミニョーラを沈静化プログラムから外し、あえて野放しにする。全て私が立てた計画だ。そして君達は結果として激しくいがみ合い、対立し、そして殺し合った。良い事だ。」
「どうして…?」
結生の呟く疑問に応じて、オーデンセは続ける。
「…戦いをくぐり抜け、生き延びた戦士は生きた戦力になる。そして死した勇士の魂の力は我が手のうちに。」
彼は右手を掲げ、強く握り締めた。
一陣の風が巻き起こり、部屋をぐるりと一周駆け抜ける。
「!」
「…結生。悪い事は言わない。今すぐにこの場から立ち去って、全てを忘れるのよ。」
スリプナーは告げる。
結生は怒りと悲しみが入り混じった暗い声で応じる。
「あなたもグルだったんですね、スリプナーさん。私の味方だと、信じていたのに…!」
「………。」
「では君は、」
とオーデンセ。
「どの様にして私の役に立ってくれるかね?生きた歩兵としてか?それとも死したる魂としてか?どちらを望む?」
「どちらもごめん被る。」
“神”の声は言う。
「分かった。ならば反乱を鎮圧させてもらう。」
オーデンセの手中に忽然と槍が現れる。
それは真っ直ぐに結生に向かって投げつけられた。




