表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/48

一撃

「離せ!」


漆黒の制服に身を包んだ、騎士の様な少女は叫ぶ。

構わず結生は、見えない風の矛を両手で掴み続ける。

渦巻くつむじ風が棒状に押し固められたかの様な感触。

油断すれば手からスルリとくぐり抜けそうなそれを、彼女は必死に掴み続けた。

しばしの間二人はもみ合う。

予想どおりだと、結生は思った。

この不可視の武器は、先端にしか破壊力が無いのだ。

決死の覚悟で彼女は近接戦に挑む。

細い腕同士が絡み合い、取っ組み合いの形相を呈する。

乱闘とあらば、結生よりも頭一つ分背が高いルシーアが、有利であるかに思えた。

しかし結生は、自動小銃一丁を抱え込んだ一兵卒の如くに、激しく抵抗した。

見えない武器を、互いに引き合いながらの格闘。

結生は隙を見て、ルシーアの腹部に強烈な膝蹴りを叩き込んだ。


「……っ!」


うめき声を上げ、うつむく騎士の様な少女。

結生は自信を深めたかの様に一層強く、渦巻く空気の矛を掴んだ…


「いつだったか、“甘い”と言わなかったか?」


不吉な灰色の瞳をして、結生を見上げる。

その声は冷徹な監獄の号令を思わせる、不吉で絶対的な調べ。

ゾッとする感覚を、結生は味わって…


ざり…


静かに、その感触は結生の手のひらを焼き、手首を、腕を、肩を貫いて、恐るべき悪寒を彼女の精神にもたらした。


…間を置いて血が点々と絨毯の上にこぼれ、冒涜的な染みを作った。

瞬時に、おろし金の様に表面を変えた“矛”が、結生の両手のひらの皮膚を削いだのだ。

短く鋭い悲鳴を上げて、結生は武器から手を離した。


「“甘い”ぞ!これが3度目だ!」


面を上げた“白のケツァルコアトル”の冷徹な叫びが大部屋に響き渡る。

昇る朝日の様に掲げられ、高く伸ばされたその白い腕。

見えざる神の一撃が空間を切り裂き、時を貫き、小さな少女の身体へと破滅的な唸りを上げて振り下ろされた。


ガツンと言う衝撃。

結生はそれを自身の右肩に感じた。

そして凄まじい風圧と衝撃波の暴力が顔の右半分に降りかかり、グチャグチャにかき混ぜられて、鼓膜が弾ける感覚を伴って、彼女の意識を忘我の彼方まで吹き飛ばす。

無意識の領域に身を横たえる瞬間、結生は切断された自分の右耳が、真新しく出来たばかりの血溜まりに浮かぶのを、はっきりと垣間見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ