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Qは疑問(クェスチョン)のQ

「誰かが、私を…?」


結生は顔色を変え、黙り込む。

視線をずらして窓を見て、そこに映る自分の表情の険しさに少し驚く。

オーデンセが追い打ちをかけるように彼女に告げる。


「今回の事件、愉快犯でない事は明白だ。あまりにも用意周到に準備されている。しかも、スリプナー君によると当局側の関与の可能性もあると言う事だ。明確に、そして殺意を持って臨んだに違いないよ。」


「殺意…!?」


結生は肝が冷える思いだ。

しかし、オーデンセ教授は話を続ける。

人の心、と聞いて人の心臓を思い浮かべる様な男。

一切の感情を排した、一方通行で冷徹な分析が続く。


「浅野君。念の為聞くが、君は知っているかね?“神影”を持つ人間が死んだ場合、その“影”はどうなるか?」


「いいえ…知りません…。」


結生はか細い声で答える。


「より近くの、適性を持つ器に引き継がれるのだ。今回はルシーア君がこの現象により、“神影”を引き継いだ。」


言った後で、オーデンセは結生に顔を近づけて尋ねる。


「“彼ら”はどうしてその事を、君に教えなかったんだろうね?」


「……。」


結生に言葉はなかった。

胸のうちで記憶に残る“灰色の枢機卿”の、神経質だが裏表の無さそうな、実直な顔を思い出す。

本当なんだろうか?

政府当局が、連携して自分の命を…?

信じていた自分の世界が、ユラユラと揺さぶられて倒されかけている気がした。


「この国にはより、国家に忠実なしもべがワンサカといる。もしかしたら、そんな“器”に移したいと、思うのかも。いや、すまん。ただの年寄りの妄想だ。気にするな。」


オーデンセは何事も無かったかの様にして立ち上がり、自身の作業机へと戻った。


「そう言えば、」


釘付けになったかの如く、床に座ったままの結生に彼はこう告げる。


「今日夜7時、かの“灰色の枢機卿”がこの学園を訪問するそうだ。立て続けに“神影”絡みの事件が起こったので、視察に来るらしい。」


結生は無言のまま立ち上がった。

結露が滴る窓の外から、虚しさを感じさせる古びた鐘の音が聞こえた。

本を棚にしまい、うつむいて部屋の出入り口のドアノブを握る。


「Qは疑問(クェスチョン)のQ。」


オーデンセは彼女の背中に言葉を投げかける。


「思考の矢は目的を射止めるだろう。言葉が意味を見いだすが如くに。願望が安楽を探し出すが如くに。」


結生は部屋を出ると、以前にファラフナーズとの一戦を交えた、学園が誇る贅を尽くした来賓室を目指した。

階段を静かに降り、足音を潜めるようにして、音も無くその場所を目指す。

どこまでも灰色に続く、長い廊下を結生は歩いていく。

まばらに行き交う生徒の群れが結生の目に、何か新鮮な物であるかの様に映った。

行く末に人影が見える。

見覚えのある来賓室の大扉。

深い色合いをしたその前に、ルシーアの白く輝く顔があった。

彼女は結生と目を合わせると、大きな扉を単独で少し開け、中の空間へと姿を消した。


「……。」


結生は意を決すと己が内に、苛烈な闘争本能と生存への欲求があるのを確認して、一歩を踏み出した。

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