魔術
戦いの後。
カラスの群れは去り、結生の周りはつかの間の平穏を取り戻した。
そして、スリプナーは結生の前から姿を消した。
忽然と、猫がそのニヤニヤ笑う顔のみを残して消え去る様に。
手がかりのみを残したまま彼女は消えた。
結生はオーデンセ教授の部屋にいた。
最近、放課後の時間はもっぱらここで過ごしていた。
まるで係で決められているかの如く、決まって、放課後の鐘が鳴ると自動的にこの部屋へ来る。
魔術、オカルト、民俗学。
様々な“黒い”知識を、結生は聞いて学習した。
今日も彼女は彼の部屋に来て、話を聞いたり、本を漁ったり、ルーンの描かれたカードをいじくったりして過ごした。
オーデンセはテーブルの向こうから、床に座ったまま壁に寄りかかり、読書する結生を見て、ため息をつく。
「…君、本当に彼を助けたければね」
彼は言う。
「もっとこう、他に頼れる人は居ないのかね?」
「今は…これしか頼れないですから。」
結生は手に持って読んでいる錬金術の本から、少し目を上げてオーデンセ教授の顔を見る。
興味深そうに彼は彼女の、不安に堕ちつつも確信を深めている様な、その怜悧そうな顔を眺める。
彼は結生に問いかける。
「その本には何が書かれている?」
結生はゆっくりとページをめくる。
「自然が創造力を求めている事について、書かれています。」
「ほう。」
感心した様にオーデンセは短くため息をつく。
「その創造力とは、つまるところ何だ?」
「混沌そのものです。」
オーデンセは立ち上がって、結生の隣に来て座り込む。
「今君の心の中にある考えを言ってごらん。」
結生はパタンと本を閉じ、言った。
「私が核心に迫ろうとする度に、邪魔が入る気がします。」
重々しくオーデンセは頷く。
結生は続ける。
「一回目はタパと話していた時。二回目はスリプナーさんと話していた時。」
「何か…変な感じがするんです。一挙手一投足を誰かに“見られている”様な…」
オーデンセは眼帯で覆われていない方の眼を輝かせて言う。
「君はとても素晴らしい勘を持っているね。」
オーデンセはあぐらをかいて座り、言う。
「…そもそもの事の発端はあの痛ましい事件だろう。本当に悲惨な出来事だった。」
「……。」
「君が普段座る席が恐らくは時限爆弾、で吹っ飛ばされた。」
言ったあとで、隣の結生を見る。
陰鬱そうな顔に一つ、取り残された右目が彼女の戸惑う表情を捉えている。
「そう。」
結生は両手で自身の膝を抱え込んで言った。
「…だからこそ、石破君が犯人と言うのはあり得ないんです。」
彼女はか細い声で言う。
「もちろん。君は石破君の親友なんだからね。君を殺そうとなんて、するはずがない。」
「……。」
「だとすれば?」
結生は教授の渋く結ばれた顔を垣間見る。
「“誰”が君を殺そうとしたんだろうね?」




