発見
学園の食堂入り口手前。
屋台の様な手押し台車の近くに、見覚えのある顔があった。
マリーアとルシーアの兄、ホセの姿があった。
「兄さま!」
嬉しそうに駆け寄るマリーア。
続けて結生が、スリプナーが、そしてルシーアが後に続こうとする…
「お前は、駄目だ。」
大振りな肉切り包丁を真っ直ぐに突きつけ、ホセはルシーアに告げる。
ピタ、とその場に釘付けになったかの様にその場に立ち止まる。
「いかに妹と言えど許さん…手間暇をかけて立ち上げ、育て上げてきた俺の店を…あんな風に…あんな風に…」
その無骨な顎からきしる音が響き、喉の奥から唸る声が漏れた。
「賞味期限切れ卵でも食らえ!」
そう言葉と共にルシーアに投げつけられる、白くて丸い鶏の卵。
べしゃ、と音を立てて彼女の額にぶつかり潰れた。
「……。」
明るい銀色の髪が翻って、女子寮の方へ走り去って消えた。
「ホセさん…」
いたたまれない気持ちになって、結生は両の手を握りしめた。
スリプナーは彼に近寄って言う。
「すみません、大変下世話な質問ですが修理費用は…?」
「ああ、出たよ。“機関”からな。」
彼は屋台の角からウォッカの小瓶を取り出して、そう言う。
「であるからして今、実店舗は改装中。俺はこの屋台で人の多い場所を回送中、て訳さ。」
言って彼は無色透明な液体を一口煽る。
「飲まずにやってられるか…金の問題じゃねぇんだぜ、畜生。」
彼はスリプナーの細い顔を見つめる。
「あいつには一回厳しく当たらなきゃ駄目だ。一カ月、ポテトとマヨネーズだけで生活させるとか、そんな生っちょろい罰じゃなくてな。とにかくあいつは思い込みが激しい。人の話だって聞きやしねえ。」
「…組織として善処します。」
真面目な顔をして言うスリプナーから、彼は結生へと目を移す。
「おぅ、嬢ちゃん。辛気臭い顔すんじゃねぇ。あんたは何も悪くない。悪いのは出来の悪りぃ俺の妹の方でよ…」
二口目の酒を口中に注ぎ入れる。
そんな兄に、妹であるマリーアは言う。
「じゃあ、二人の妹のうち、良い方の妹にさ、何かおごるって考え方ない?タコスとかタコスとかタコスとかさ。あの日食べそびれちゃってから、アタシ腹ペコなんだよぅ。」
少し前から飲んでいたのか、若干眠そうな面持ちでホセはマリーアの顔をじっと見る。
そして叫んだ。
「分かったぞ!」
無機質に高い廊下の天井に至るまで響き渡る怒声。
その場にいた誰もが釘付けになる。
「……そういう筋書きなんだな。」
「……。」
周りが硬直する中、ホセは興奮しながら話す。
「そういう“役”ってこったな?これから毎回毎回、俺は自分の店を、何かある度にぶっ壊されるんだろ、そういう役回りなんだろ!?全部読めたぜ!」
「落ち着きなよ兄やん。この世界は小説じゃないぜ?」
妹の言葉も虚しく、ホセは結生達を追い払うかの様に立ちはだかった。
「…失せろ、疫病神共。今後俺の店に関わろうとするなら…」
屋台の上に置かれた、大振りな肉切り包丁を目で指し示す。
「“バラす”ぞ。解体して、皮剥いで、ミンチ肉に挽いてやる。その後で」
彼は一同を壮絶に睨みつけ、言う。
「スパイスかけちゃうぞ…?」
狂気じみた顔から本能的な危険を感じ、結生達はその場から逃げる様に脱出した。




