自由時間
オーデンセ教授の部屋を出て、三人が振り返った先にはスリプナーがいた。
「……。」
いつもの灰色のスーツではなく、ラフな長袖のワンピースを着ている。
結生の口から明るい声が漏れた。
「ズドラーストヴィチェ(こんにちは)、スリプナーさん!」
「ズドラーストヴィチェ、ユキ。」
にっこりと微笑んで応じる。
結生は初めて見る彼女の私服に目を見張った。
「可愛いですね!」
口元に微笑みを残しながらスリプナーは答える。
「私達“エージェント”にだって休日はあるのよ。今日はオフの日って訳。」
「じゃ、タコスでも食べに行かない?皮で包まれた美味しーやつ。」
マリーアがジトッとした眼でスリプナーを見つめて言った。
「良いわね。」
四人は連れだって、学園の灰色の廊下を歩いた。
「…で、どうだった?オーデンセ教授の授業は。」
「…噂に聞く通りの、奇人であったな。」
大仰に腕を組み、ため息をついて語るルシーア。
…最初から思っていた事だがこの女、芝居がかってるな、と結生は思う。
「そう言うけどさ、姉貴だって大概だぜ?」
長い袖をフリフリしながら言うマリーア。
妹の言葉に少しムッとしたように、ルシーアは歩みを早める。
「アタシさ、ホントにあの時、みんな店ごと吹き飛んで死ぬんじゃないかって思ったよ。」
「あの…」
強引気味に結生が割り込んでスリプナーに聞く。
「タパは大丈夫ですか…?」
「命に別条はないわ。」
静かに彼女の目を見てから言うスリプナー。
「お腹の肉が少し切れて、腸がちょっとはみ出しただけ。縫合は済んで、今は安静にしている。来週末には退院出来るかもって。」
「はっ、はは…」
強張った笑みを浮かべる結生。
何でもない事の様に語るスリプナーが、ほんの少し恐ろしく感じた。
土曜日の午前。
明るく輝き、しかし微かに秋の気配を感じさせる控えめな日差しが、学園の曇ったガラスを通して結生達の顔を照らした。
ぐぅぅ、とお腹が鳴る音が響く。
「……。」
結生は見逃さなかった。
前を歩くルシーアが自身の腹をさすり、ほんの少しだけ耳たぶを赤色に染めるのを…
「ユキ、お腹すいた?」
「…空いたっちゃ、空きましたけど…」
釈然としない表情でスリプナーに答える結生。
「姉さま、ダイエットのし過ぎは身に毒ですぜぃ」
猛然とルシーアは振り返って、妹の顔を強烈に睨みつけた。
そして言った。
「そう言えば、兄様の店は今どうなっている…?」
「オゥ!妹共よ!」
威勢よく声をかける男の声がした。




