神々の夜明け
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それは、明け方に見る夢の様に、結生達が共に過ごす時間を素早く駆け抜けた。
明るく、青く輝く、夏の陽気の最後の一欠片。
明朗な少女達の笑い声と、重厚に語る老人の威厳ある声が混ざり合う。
年寄りは己が持てる知識の全てを提供し、少女達はこの世で最も尊い宝、すなわち純粋な好奇心と永遠の未熟さでもって、オーデンセ教授の魔法の講義を受けた。
深い色合いをしたテーブルに、黄ばんだ色をした厚紙で作られたカードが並べられる。
一枚一枚に手書きで、ルーン文字が一文字ずつ書き入れられていた。
そしてその下に、結生達には分からない、遠い異国のモノと思しき文字で解説が書かれていた。
「およそ、そのものに形があるならば、それは必ず理解する事が出来る。」
カラスの鳴き声のような高い声で、彼は言う。
「理解できるのであれば、それはコントロール出来ると言う事だ。つまり何が言いたいかと言うと…」
オーデンセは三人に向き直る。
「君達は自らの“読み方”を理解せねばならぬと言う事だ。」
彼はカードを並べ直し、解説する。
結生は夢中で話を聞いた。
ルーンの文字、一文字一文字に刻み込まれた、その深い意味の数々を…
「F-ルーンは探索、探索のF。角度の世界から現れる怪物が君を狙っている時、身を守る盾になるだろう。」
「U,V,W-ルーンは狼、狼のW。原野を歩む時には必要だ。焚き火に当たる時、不用意な言葉を口にして、火の女神を怒らせない様に。」
「Th-ルーンは海の女神。海のTh。その深い海底には神々の記録の断章が沈む。」
「A-ルーンは答え、回答のA。それは痛みを消すもの。疑問に関する苦悩を払うもの。」
「R-ルーンは現実、現実のR。雷鳴が轟く時、稲光の衝撃が幻想を、妄執を打ち砕くだろう。獣神トールの加護あれ!」
「C,K,Q-ルーンは疑問、疑問のQ。思考が迷走し、あなたの心があなたの心に無い事を言う時、このルーンが役に立つだろう。」
オーデンセはまた、神々の事を語る。
「先駆けスレイプニル。獣神トール。月の白鳥ヘーニル。神々が呼ぶ声ミーミル。」
そう言って、自身の眼帯に手を伸ばす。
「永遠の命の果実テレートス。完全なる知恵の泉ソフィアー。」
オーデンセは語る。
「我々が何を知り、何を知らぬかを知らねばならぬ。三度の厳しい冬が過ぎ、黄昏の中で、女神アル・ウッザーが破滅のラッパを吹く前に。」
…明け方に見る夢の様な、青き幻影の一時はそうして明るく過ぎた。
教授は最後にこう告げた。
「君達は学ばねばならぬ。神々の事を。そして知るべし。世界がいかなる脅威に晒され、破滅がいかに近く、恐ろしく迫っているかを。偉大なる神は自らを生贄に捧げた。彼自身が彼自身、すなわち神々の王オーディンへの生贄だったのだ。全知の上に全知を重ねんが為に。そうして彼は死んだ。死んで心は冥府に落ち、そして掴んで戻って来た。文字を。偉大なるルーンはそうして得られた。」
結生達の目の前で、ギィと音を立てて扉は閉め切られた。




